2006年第1回
日本構造デザイン賞

総合選考評 ▶



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Jörg Schlaich (ヨルグ・シュライヒ)
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経歴(受賞時)
1934 Born in Stetten i.R. near Stuttgart
1953-55 Architecture and Civil Engineering at TH Stuttgart
1955-59 Civil Engineering at TU Berlin (Dipl.lng.)
1959-60 Civil Engineering at Case Tech, Cleveland / Ohio (M.Sc.)
1960-63 Technical University of Stuttgart (Dr.lng.)

Professional Experience
1960-63 L.Bauer, Civil Contractors, Stuttgart
1973-79 Leonhardt und Andra, Consulting Engineers, Stuttgart

since 70 as a partner, Authorized Proof Engineer
since 80 Schlaich Bergermann und Partner, Consulting Engineers, Stuttgart, founder and partner

University Record
1967-74 Reader for Reinforced Concrete Structures, University of Stuttgart
1974-00 Full Professor and Director of Institut fur Konstruktion und Entwurf (for Structural Design), formerly called Institut fur Massivbau (for Concrete Structures)

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軽量構造の発展に対する顕著な貢献
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Waldstadion.

Humpback Bridge.

DZ Bank.

Hambrug Central Bus Station.

Suiderelbe Bridge.

Museum for Hanburg history.

Gottlied-Daimler Stadium.

Killesberg Tower.

Max-Eyth-See pedestrian bridge.

Bullring at Zaragoza.

Berlin Main Train Station.

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選考評
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 外国からの応募作品は、本年5月に中央ヨーロッパのハブ駅として完成した、新ベルリン中央駅(Berlin Main Train Station)の構造デザインであった。
 構造設計はヨルグ・シュライヒ、建築設計はフォン・ゲルカン・マルクである。この駅は地下のストックホルム―パレルモ線(南北)、地上高架のパリ―ウラジオストック線(東西)、さらにローカル線のための6個のプラットフォームを持つ巨大駅である。
 駅舎の大屋根は湾曲して走る東西線をカバーするもので、全長320m、平均スパンは約60mである。
   この屋根の特徴は、アーチの立ち上がり位置での接線が垂直に近く、しかも中央部でのライズを出来るだけ小さくするために、いわゆる3心アーチになっており、そのままでは屋根荷重によって大きな曲げモーメントが生じる。これを解消するために、曲げモーメント分布形に近いケーブルを配置し、等分布荷重に対してはほぼ曲げがゼロになるような構造システムになっている。アーチ間の13mは、ケーブルブレースを持つ円筒形のグリッドシェルで構成されており、巧みなディテールによって、垢抜けしたガラス屋根を構成している。
   応募作品は、上記のベルリン中央駅であったが、これは設計者のシュライヒ氏が一貫して主張し、作品を通じて実証してきた軽量空間構造のもつ合理性と造形の可能性を示す、ひとつの実例に他ならない。彼の軽量構造物に対する概念は明快であり、航空機における「ペイロード」の考え方に極めて近い。つまり構造物の自重は必要悪であると言う考え方である。
   彼はこの基本概念を持ちながら、構造システム、材料、ディテールの可能性を追い続けてきた。特にディテールについては、徹底的に無駄を省くことにより、現代的な美しさが得られることを、多くの設計例によって示してきた。彼は、エネルギー問題に対しても、徹底した考え方を示している。特に太陽熱の利用については独創的な考え方を示している。
  初期の段階では、彼は経済的なレフレクターの考案を行った。それは、ドラム状につくったレフレクターの内部の空気を抜くことによって、円盤状の反射面を内側に湾曲させ、構造的、経済的に大規模な凹面鏡を作りだそうと言うものであった。近年の彼の試みは広大な砂漠面を透明膜で覆い、そのエネルギーを中央の高い煙突状の筒から放出して気流を作り、筒の根元に設けた風車発電機によって、エネルギーを抽出しようとするものである。
   選考委員会は、このようなヨルグ・シュライヒ氏の一連の軽量構造物の分野における優れた貢献を高く評価し、受賞者として選出した。

川口 衞(選考委員長・構造家・法政大学名誉教授)

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