2006年第1回
日本構造デザイン賞

総合選考評 ▶



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徐 光(じょ・こう)
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経歴(受賞時)
中国上海生まれ
1988年 来日し、構造設計集団(SDG)入社
1990年 日本大学理工学部斎藤公男研究生終了
1995年 ジェーエスディー(JSD)を設立、現在に至る

主な作品
2002年 グランディー本社ビル
2003年 湊コーポラティブハウス バンドハウス [2004年Good Design Award][建築デザイン賞]
2004年 JYU-BAKO[2005年PC技術協会 作品賞]
2004年 K・Bビル
2005年 YOH美しが丘集合住宅 “Link”[2005年神奈川県建築コンクール特別賞]
2005年 日本橋三井タワー アトリウム
2006年 高地カフェ“いちとにぶんのいちView”

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aLuminum-House
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外観1。(撮影:吉田誠)   ▶

aLuminum-House
所在地 神奈川県川崎市/ 建築用途 専用住宅/ 竣工 2005年5月/ 意匠設計 株式会社アトリエ天工人/ 構造設計 株式会社ジェーエスディー/ 施工 株式会社田中工務店/ 敷地面積 181.48m2/ 建築面積 72.38m2/ 延床面積 59.08m2/ 階数 地上1階/ 構造 プレストレストアルミ造/

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選考評
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  小住宅 aLuminum−House の建築のデザインコンセプトは、〈急勾配でアクセスの困難な敷地に眺望ゆたかな住居空間を生みだす挑戦〉であるといえる。構造設計者徐光氏は、多くの検討と適切な解法によってこの課題を緻密に解決している。ここでは重機の入りにくい敷地、脆弱な地盤にまず強固なコンクリート基壇をつくりあげ、その上に軽量化を目指しアルミニウム構造の住居空間を形成することが試みられた。
  6.870m×8.270mの空間はコーナーをフリーとし、4枚のアルミ構造壁によってささえられる。構造壁面、屋根の連続梁は同一の断面のアルミ押出し型材(70mm×210mm)であり、これらの構造部材は1種類のアルミジョイントダイキャスト材を介してPC鋼棒により圧着接合されている。最大長の梁の重量、30kgにみられる様に、ひとりでもちあげられる程の軽量化、部材の均等化、ボルト締めなしの工法による合理化など、徹底した構造設計、製作監理、施工の工夫がなされていることは注目に値する。それ以上にシャープなアルミニウムの型材のもつ繊細さが小住宅の空間に開放感とリズムを与えている点を評価したい。
  本小住宅は、ダイナミックなコンクリートの台座と繊細なアルミニウムがもたらす透明感あふれる軽快さの対比が妙を得ている。第1回日本構造デザイン賞の候補者となった本住宅建築の構造設計者は、PC、木構造、大規模鉄骨構造などにすでにすぐれた設計手腕をみせているが、この小住宅においていかんなくこれまでの経験をつぎこみ、今日、建築における重要なテーマの1つとなっているアルミニウム建築に構造デザインの方法を的確に提示している事によって高い評価を得る事となった。とりわけ圧着によるボルトレスの表現は空間の質を大きく向上させている。PC構造における技術的経験が生かされている点に特に着目したい。
  構造設計者の創造的な協力は、規模の大小を問わず優れた建築を生み出すには必須である。今日の構造設計者には、素材、計算方式、製作工法の諸分野における積極的かつフレキシブルな理解と実践力が強くのぞまれる。
  アルミニウムの新たな押出し材をつかう事を決定して後、コストダウンとフレキシブルな製作対応をもとめ、小規模プロジェクトにもかかわらず海外における製作にまで踏み込み実現に達した点に、施主の理解のもとで建築家、構造設計者の創造的建築デザイン、技術へと向けた努力がひしひしと感じられた。こうしたプロセスにおいても本構造設計者、徐光氏が果たした役割は大きく、多くの構造設計者への示唆に富むものと考える。
  徐光氏は本作品および今日までの諸作品において、第1回日本構造デザイン賞受賞候補としてふさわしい構造設計者として認められるものと考える。今後のさらなる挑戦と展開に期待するものである。

岡部 憲明(選考委員・建築家・神戸芸術工科大学教授)

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