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永井 佑季
(ながい・ゆき)
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経歴(受賞時)
1983年 埼玉県生まれ
2006年 日本大学理工学部建築学科卒業
2008年 日本大学大学院理工学研究科建築学専攻博士前期課程修了
2008–09年 日本大学 助手
2008–10年 東京芸術大学 教育研究助手
2012年 日本大学大学院理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了、博士(工学)
2012年–現在 佐々木睦朗構造計画研究所
主な作品
「京都市立芸術大学・京都市立美術工芸高等学校(C地区)」(2023年)
設計:乾・RING・フジワラボ・o+h・吉村設計共同体
「日本女子大学 百二十年館」(2021年)
設計:妹島和世建築設計事務所+清水建設、構造:佐々木睦朗構造計画研究所+清水建設
「信濃毎日新聞松本本社 信毎メディアガーデン」(2018年)
設計:伊東豊雄建築設計事務所
「山梨学院大学 国際リベラルアーツ学部棟」(2015年)
設計:伊東豊雄建築設計事務所+清水建設、構造:佐々木睦朗構造計画研究所+清水建設
海越しの全景。(©SANAA) ▶
あなぶきアリーナ香川(香川県立アリーナ)
所在地:香川県高松市/主要用途:観覧場/竣工:2024年/発注者:香川県/設計:妹島和世+西沢立衛/SANAA/施工:大林・合田・菅特定建設工事共同企業体/敷地面積:31,336.79㎡/建築面積:18,976.44㎡/延床面積:28,975.10㎡/階数:地下1階、地上2階/構造:S造、RC造、一部、SRC造/工期:2022年3月–2024年11月
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選考評
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駅から歩いているとぼんやり光る水平線を背景にモコモコ屋根が浮かぶ。瀬戸内の島のようだろうな、と見返す景色を想像していた。近づいてみると、1万人規模のメインアリーナを低予算で実現した構造体は清潔感があり、白い塗装もあってカルシウム質で重さを感じない。施工上必要な継ぎ目や補強材はスケールや接合部の量、曲面の複雑さに比して少なく、そのモノコック感とシンプルな円形は小さな骨格生物の体内にいるような、相対的に自身の重さも忘れてしまう不思議な浮遊感を生み出しているのだ。材料や製作寸法、鉄骨精度や接合部強度などものづくりの本質を理解しなければ、構造を意匠として仕上げることはできないし、ましてや低予算での実現など不可能である。構造家と建築家が綻びなく隅々に光を当て、ディテールの力学的性能に答えながら構造体を意匠と解釈し、調整することで、部分を全体へと紡いでいく。その膨大なプロセスは想像にあまりあるものである。説明を聞いて外に出ると、モコモコ屋根が愛おしい。訪れる人びとも、よく考えられた建築ならではの温もりを感じているはずである。
原田 麻魚(選考委員・建築家)
3つの空間を覆う1枚の有機的な三次元曲面の大屋根。3Dモデリング、構造解析技術、CNCによる加工技術などの技術革新によって大空間でも自由な曲面の建築が実現可能になった。一方、自由度が広がれば広がるほど構造設計においては、構造計画、施工計画の整理が重要になってくる。閉断面の鋼管+鋳鋼ジョイントではなく、開断面のH形鋼+高力ボルト接合であればなおさらである。部材が集まる格子梁の交点は、剛接合でもあり角度をずらしながらの応力伝達が必要となるが、これを交点ではなく十字型のフランジを用いてジョイント位置を持ち出して接合することにより、従来の折り曲げ加工技術で接合部の角度の変化を吸収して納めている。設計記録のような提出資料からも、懸念点、着想から詳細検討、製造までの経緯が設計思想とともに伝わってきた。大規模な建築全体の構造計画から、接合部の詳細設計まで詰めることで、意匠性にも富むディテールをもつ魅力的な空間が生まれていた。
腰原 幹雄(選考委員・構造家)
「あなぶきアリーナ香川」は、3つの異なる規模の体育施設を一体化した複合アリーナであり、最大スパン116mに及ぶ大空間を実現している。大スパン構造に加え、音響対応による荷重増、湾岸部特有の軟弱地盤、建設費の高騰など、あらゆる課題に対し、幾何学的調整、鋼管から開断面H形鋼への変更、単層ラチスシェル構造とテンションリングの応用など、構造的知見と美的配慮をもって応答しており、構造デザインの可能性を拡張する事例として認められる。大スパンながらも低く抑えられた屋根は、風景との調和を生み出し、建築家との密な協働を通じて用途の複合化とスケールの拡張を同時に達成している。永井氏は、学業を斎藤公男氏、就業を佐々木睦朗氏というふたりの松井源吾賞受賞者のもとで学び、論文から設計までを一貫した活動として実践してきた。働き方が多様化する令和の時代においても、師匠と弟子の関係が生む学びと継承の力は色褪せず、永井氏の活動は、その価値をあらためて実感させるものである。当倶楽部の会員として迎えられることを心より歓迎する。
大野 博史(選考委員・構造家)