2025年第20回
日本構造デザイン賞
松井源吾特別賞

総合選考評

前の受賞者

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磯野 義人
(いその・よしと)

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いその・よしと

経歴(受賞時)
1935年 千葉県銚子市生まれ/1955年 千葉県立銚子商業高校(夜間)卒業/1958年 ルーテル英語学校/1959年 ロゴス英語学校/1960–64年 在日米軍陸補給厰/1965年 工学院大学電子工学科(二部)卒業/1965年 太陽工業株式会社入社/1967–2016年 国際シェル・空間構造学会(IASS)正会員/1975–77年 東京造形大学造形学部テキスタイルデザイン学科非常勤講師/1993年 太陽工業株式会社退職(退職時技術本部長)/1994–2016年 空間構造の世界巡礼(26カ国500都市)

主要担当作品(膜構造部の技術主任)
東京スタジアム・アイススケート場」(1965年)
建築設計:丸川建築設計事務所
構造設計:東京建築研究所
施工:東洋製作所

日本万国博覧会(大阪万博)EXPO’70 アメリカ政府館」(1970年)
基本設計:
  建築:Davis, Brody, Chermayebb, Geismar, de Harak, Ass
  構造:David Geiger, Horst Berger
実施設計:(株)大林組建築本部設計部
施工:(株)大林組

著作
天幕─遊牧民と狩猟民のすまい─
監修:梅棹忠夫
著者:トーボー・フェーガー
訳者:磯野義人
発行所:エス・ピー・エス出版
初版:1985年

空間構造』資料編(第3巻〜第11巻)
発行者:坪井善勝記念講演会実行委員会(代表:青木繁)
提供:磯野義人
発行:1995〜2005年
印刷所:ニッセイエブロ(株)
表紙パース作成:川崎一雄
第3~4巻では論文集と合冊。第5~10巻では資料編として別冊で発行。第11巻は補足版として資料編のみ発行(資料編はすべて磯野の提供による。第3巻に磯野は論文も掲載)。 論文タイトル(第3巻):「日本の膜構造……その黎明期」
資料編(以下、主な掲載内容)
第3巻 メキシコ:フェリックス・キャンデラの作品。メキシコシティ、クエルナバカ、モントレー、アカプルコ、ガダラハラ、シーダッド、サグン他。
第4巻 スペイン:エドアルド・トロハの作品。モハメディア(モロッコ)、カサブランカ、ポルト、リスボン、シンガポール他。
第5巻 イタリア:ピエール・ルイジ・ネルビの作品。パリ、ブレスト、サンフロー、ニューヨーク、セントルイス、ボストン他。
第6巻 スイス:ハインツ・イスラ―の作品、シアトル、タコマ、バンクーバー、トロント、モントリオール、プレスロー(ポーランド)他。
第7巻 ドイツ:F.Dischinger, F.Leonhardt, J.Schlaich, F.Ottoの作品。ヒューストン、フェニックス、ビッツバーグ、ヒューストン、タンバ、香港、シドニー他。
第8巻 イギリス:T.Telford, R.Stephenson, I.K.Burunel, Ove Arupの作品。ポートランド、ミネアポリス、メキシコ、クアラルンプール、上海、ニューデリー他。
第9巻 フランス:G.Eiffel, E.Freyssinet, N.Esquillan, R.Sargerの作品。ホノルル、サンディエゴ、ウルバナ、ナイアガラ、フォールズ、ユティカ、ソウル、台北他。
第10巻 ベルギー、オランダ、ヘルシンキ、ストックホルム他。
第11巻 スロバキア、チェコ、ポーランド、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、ドイツ、オーストリア、ベルギー、イギリス、アメリカ合衆国、アラブ首長国連邦、シンガポール、大韓民国、中華人民共和国、ロシア。

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業績:膜構造による空間構造の発展への寄与
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「東京スタジアム・アイススケート場」(1965年)外観。  ▶

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選考評
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 本年2025年の大阪万博においては木造リングに加えて多彩で先進的な膜構造のパビリオンが入場者の心を捉えている。また大きなドームから駅前のキャノピーにいたるまで、軽く明るく丈夫な構造材料として膜構造とその空間は、現代の都市機能にとってなくてはならない存在でもある。
 恒久的な膜構造はそれほど昔からあったわけではなく、1960年代頃から世界中で競って開発され試され新しい軽量構造の新しい建築空間が創出されてきた。日本においてもその動きは早く、1965年に最初の膜構造建築である「東京スタジアム・アイススケート場」が建設されたが、磯野氏はその技術主任として日本の膜構造技術のスタートを切った。日本万国博覧会(大阪万博)EXPO’70においては、ニューマチック構造(空気膜構造)の「アメリカ政府館」の技術主任、1980年には「東京ドーム」の工事部長として活躍され、日本の膜構造の最先端の技術者として膜構造技術を牽引し、新しい建築構造空間を創り上げてきた。
 そしてこの間、フライ・オットー氏、ウォルター・バード氏、坪井善勝先生、石井一夫先生、川口衞先生始め、世界中の著名な構造設計者・学術者と交流を深め、IASS(国際シェル・空間構造学会)において空気膜構造の国際基準の策定に加わるなど膜構造の発展に幅広く関わってきた。
 氏の活動でユニークであることは、本業の膜構造物の仕事が一段落した後、空間構造をめぐる世界巡礼の旅に出たことである。まだインターネットなどの情報網がないころ、世界に散らばる有名無名の空間構造建築は限られた書籍や情報でしか目に触れる機会が限られていたが、氏の活動により貴重な写真や情報が収集された。そしてそれらをさまざまな建築構造の研究誌、雑誌、データベースなどにおいて発表し、また提供・協力していただくことで、空間構造の啓蒙活動に大きく寄与いただいたことは大変意義深いことである。1985年に氏が翻訳し出版された『天幕─遊牧民のすまい─』は人類史においてテント・膜構造がいかに重要で有用であったかを解き明かす大変貴重な資料である。
 このように膜構造を黎明期から支え発展させ、空間構造の啓蒙活動に尽力された氏の業績は、構造デザインの発展に長年貢献し顕著な活動をされた個人を表彰する本会松井源吾特別賞にまさにふさわしく、よって2025年本賞を授与することとした。

岡村 仁(選考委員長・構造家)


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