2021年第16回
日本構造デザイン賞

総合選考評

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島村 高平
(しまむら・こうへい)

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田尾 玄秀

経歴(受賞時)
1968年 東京都生まれ
1990年 日本大学理工学部建築学科卒業後、大成建設株式会社入社
現在、大成建設構造設計部室長

主な担当作品
札幌ドーム(2001)
エコパークかごしま(2014)
愛媛県立中央病院(2014)
等々力陸上競技場メインスタンド(2015)
ソフトバンクホークスファーム本拠地球場(2016)
栄光学園創立70周年事業新校舎(2017)
大宮区役所・大宮図書館(2019)

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大成建設技術センター風のラボ
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大成建設技術センター風のラボ。内観。撮影:アダボス

大成建設技術センター風のラボ
所在地:神奈川県横浜市戸塚区/主要用途:研究所/発注者:大成建設株式会社/設計:大成建設一級建築士事務所/施工:大成建設株式会社/敷地面積:34,822㎡/建築面積:413㎡/延床面積:490㎡/階数:地上2階/構造:木造、一部鉄骨造/施工期間:2018年11月~2019年8月

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選考評
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 木材を構造部材として使用する場合、わが国では在来的には柱・梁などに線材として用いられるのが一般的だった。
 今日の環境配慮型社会の中での木材利用には、他の素材でなく木材を使うことがCO2削減に有効であるという視点がある。木材を使うことが、ひと時代前の言い方になるが「ポリティカル・コレクトネス」(政治的な正しさ)をもつ時代になったのである。大きな版状で、一定の厚さがあリ、構造材にも対応できる木材という点で、CLT(直交集成材)はその意味で時代の素材ということができるだろう。
 ただし、わが国の建築には、木材を「アラワシ」(現し)で使うという伝統がある。CLTを被膜で隠蔽してしまえば、耐火性能も、腐食性も心配する必要はなくなるし、それでも十分に「木材を使うことがCO2削減に有効である」という目的は満足するのだが、それではなんだか物足りないと感じるやっかいな国民性があるのだ。
 「風のラボ」は平面形が41.3m×9.85m、軒高8.95mの風洞実験棟である。準防火地域内にあるが、「軒高9m以下で延床面積が500㎡以下であれば内装制限を受けない」という法規制を巧みに満足しながら、幅2.7m、厚さ210mm、長さ9mのCLTパネル3枚による門型ユニットを17ユニット連続させることによって構造体と内部空間を作り上げている。風洞実験棟であればチューブ状の直方体でも機能的には十分だったかもしれないが、 CLTを1枚ごとにずらして架構するというデザイン手法を取り入れることで、ダイナミックで、自然光あふれる内部空間が出現した。現しにされたCLTによるモノリシックな木質空間は、モノリシックであるという点で、コンクリート打ち放しの空間とも通じる魅力がある。ただ、コンクリートには重く、硬く、動かしようがないという宿命があるのに対し、このCLT構造はピン接合で構成されているので、プッシュアップ工法で約2時間で建て方が完了するし、解体後の再利用も可能だという。
 この作品はCLTパネルをわずかにずらすという形態操作を徹底して追及する中で、CLTという素材の可能性を展開させた実現例として高く評価したい(評価した後で、構造分野の素人としての暴言をお許しいただくなら、構造というよりは意匠面で3ヒンジの納まりだけが気になった。僕にとってそれ以外は完璧である)。

渡辺 真理(選考委員・建築家)

 受賞作品は自社の技術センター内に新設する大型風洞実験設備を納める建物である。建設会社の自社施設であればこそ、設計者に対しては、「先進的な技術を積極的に盛り込み、その技術力を世に強くアピールすること」、という命題が与えられての計画であったと思われる。具体的には、CLTの採用を前提に、魅力ある空間をつくり出す斬新な架構システムの実現と、同時にそのシステムが建設工事の省力化・省人化工法を可能とするシステムであること、この様な課題を受けての設計であったという。
 実現された作品は、製品製作上の上限寸法に近い3枚(3辺)の大型CLTパネルの相互をピン接合した非対称形の不安定構造(ユニット)をつくり、これを桁方向に交互に左右の向きを変えて繰り返し並べ、最小の節点で相互を接続することにより、間口が約10m、高さが約9m、桁行が約42mの安定した構造とユニークな空間をつくり出している。相互のユニットを中央点での接続という構造安定化のための最小限の手段に加え、両肩の部分に鋼製圧縮材を付加することにより、より安定性が高い3ヒンジ構造を形成している。
 ユニット内のCLTパネル相互のピン接合部や、ユニット相互の接合部には鋼製部材が有効に使用されているが、これらは基本的には「埋め木」などにより隠蔽されている。可変接合部はこの構造システムの文字どおり「要」でもあり、積極的な構造表現として「現し」でもよかったのではないかと思えた。施工に関しては構造の可変性を活かし、地上で組み立てた後に屋根部分をプッシュアップする工法の開発や、1/2スケールでの施工実証実験も行われている。
 構造システムの可視性、印象的な内部空間、さらには桁方向への連続的な伸展性など、今後の展開への可能性を大いに感じさせる作品である。また、受賞者はこれまでに「等々力競技場メインスタンド」をはじめ多くの大空間建築作品において、優秀な構造設計力によりに創造的な建築空間を実現している。まさに日本構造デザイン賞にふさわしい構造家といえよう。

丹野 吉雄(選考委員・構造家)

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