2021年第16回
日本構造デザイン賞
松井源吾特別賞

総合選考評

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岡部 憲明
(おかべ・のりあき)

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岡部 憲明
©WPP

経歴(受賞時)
建築家、岡部憲明アーキテクチャーネットワーク代表、フランス政府公認建築家、日本建築学会会員、土木学会会員、芸術工学博士
1947年 静岡県生まれ
1971年 早稲田大学理工学部建築学科卒業
1971 – 73年 山下寿郎設計事務所勤務
1973-74年 フランス政府給費研修生として渡欧
1974 – 77年 PIANO+ROGERS(フランス、パリ)、ポンピドゥー・センター及びIRCAM音響音楽研究所の設計に従事
1977 – 81年 Renzo Piano, Peter Rice, 石田俊二とPIANO+RICE+ASSOCIATI(イタリア、ジェノバ)設立、アソシエイト
1978 – 80年 FIATの新コンセプトカー計画に従事
1981-88年 Renzo Piano Building Workshop Paris(フランス、パリ)チーフアーキテクト
1986年 フランス政府公認建築家資格取得
1988年 関西国際空港旅客ターミナルビル国際設計競技に優勝(競技案著作権をPianoとともに所有)
1988 – 94年 Renzo Piano Building Workshop Japanを大阪に設立、代表取締役、RPBWシニアパートナー、関西国際空港旅客ターミナルビルの設計及び建設におけるデザイン監理に従事
1995年 – 岡部憲明ア-キテクチャー・ネットワーク設立、代表取締役
1996 – 2016年 神戸芸術工科大学教授
1997-98年 東京大学大学院非常勤講師
2004年 NHK教育テレビ人間講座「可能性の建築─人間と空間を考える─」(全9回)を担当
2007年 神戸芸術工科大学にて博士号取得

主な作品
関西国際空港旅客ターミナルビル(共同設計:オーヴ・アラップ&パートナーズ、日建設計、パリ空港公団、日本空港コンサルタンツ、1994)
牛深ハイヤ大橋(1995)
小田急ロマンスカー50000形VSE(2005)
東京ベルギー大使館(共同設計:竹中工務店、2009)
箱根仙石原の研修ホテル(2017)
小田急ロマンスカー70000形GSE(2018)

主な著書
『関西国際空港旅客ターミナルビル』(編集・監修)、講談社、1994年
『ピーター・ライス自伝』(監訳)、鹿島出版会、1997年
『エッフェル塔のかけら』、紀伊國屋書店、1997年
『NHK人間講座 可能性の建築』、NHK出版、2004年
『空間の旅 可能性のデザイン』、鹿島出版会、2014年

主な受賞
日本建築学会作品賞、1995年、関西国際空港旅客ターミナルビルの設計に対して(レンゾ・ピアノと共に受賞)
土木学会景観デザイン賞 最優秀賞、2001年、牛深ハイヤ大橋に対して
第43回BCS賞(建築業協会賞)、2002年、ヴァレオ・ユニシア・トランスミッション厚木工場に対して
第10回ブルネル賞(Commendation)、2008年、小田急ロマンスカー60000形MSEに対して
稲門建築会特別功労賞、2011年
グッドデザイン賞金賞、2018年、小田急ロマンスカー70000形GSEに対して

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業績:建築デザインにおけるエンジニアリング的思考の展開
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関西国際空港旅客ターミナルビル。1994年。撮影:樋渡 貴治  ▶

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選考評
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 テクニカルなアプローチによる建築といえば、ハイテクスタイルが挙げられる。構造システムが明解に建築のデザインにビジュアル化されているのがその特徴であり、1980年代以降の多くの建築作品や、応力状態を視覚した部材構成が意匠デザインに密接に結びつくことから、構造デザインの可能性を追い求める日本の構造家に多大な影響を与えた。
 なかでもレンゾ・ピアノとリチャード・ロジャースによる「ポンピドー・センター」(1977年)はその代表作品であるが、今回、松井源吾特別賞を受賞された岡部憲明氏は、フランス政府給費研究生として渡欧後に「ポンピドー・センター」の設計チームに加わり、プロジェクト終了後はそのままヨーロッパに残り、レンゾ・ピアノ、ピーター・ライス、石田俊二とPiano+Rice+Associatiを設立、1981年にはRenzo Piano Building Workshopのチーフアーキテクトとして建築プロジェクトに参加し活躍した。
 エレメントやディテールを重視し、テクニカルで高度なテクノロジーを用いた建築作品がレンゾ・ピアノの特徴でもあるが、なかでも岡部氏が中心となって開発に関わったイタリアの自動車メーカーであるフィアットのコンセプトカー計画で得られた経験と知識は、その後に岡部氏が関わる車両等のインダストリアルデザインに活かされている。
 岡部氏の日本における最大の功績は、「関西国際空港旅客ターミナル」(1994年)をプロジェクトリーダーとしてまとめあげ、さらに日本の土木事業においても「牛深ハイヤ大橋」(1995年)を完成させることによって、他に類を見ない曲面の箱桁が美しい橋の設計を実現させたことである。ともに構造や環境設備に関する技術が建築と橋梁のデザインに活かされた作品である。
 これらのプロジェクト終了後の1995年には、岡部憲明アーキテクチャーネットワークを設立し、建築のみならず小田急ロマンスカーやケーブルカーの車両デザイン、照明器具等のプロダクトデザインの開発にも携わり、人間工学に関わる技術の導入を試みた多方面にわたるデザイナーとして活躍している。
 以上により、建築のみならず幅広いジャンルのデザインにおいて、高度なエンジニアリング的な思考による高いクオリティの作品を創造し、また海外の先鋭的な建築作品に数多く関わった実績を有する同氏に、松井源吾特別賞を贈るものである。

多田 脩二(選考委員・構造家)

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