2021年第16回
日本構造デザイン賞

総合選考評

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坂田 涼太郎
(さかた・りょうたろう)

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坂田 涼太郎

経歴(受賞時)
1973年 東京都生まれ
1997年 早稲田大学理工学部建築学科卒業
1999年 早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修了
1999年 金箱構造設計事務所入社
2012年 坂田涼太郎構造設計事務所設立
2016~21年 早稲田大学非常勤講師

主な作品
青森県立美術館*1(2006)
広島市新球場*1(2009)
工学院大学125周年記念総合教育棟*1(2012)
道の駅あいづ*2(2014)
神奈川大学国際交流センター(2015)
道の駅平泉(2017)
野々市市文化交流拠点施設(2017)
屋久島町庁舎*2(2019)
柳小路南角(2019)
奈良の木を使用した移動式仮設体育館*2(2021)
道の駅たのはた*2(2021)
(*1:金箱構造設計事務所での担当物件、*2:稲山正弘氏と協働)

著書
『構造設計を仕事にする-思考と技術・独立と働き方-』(共著、学芸出版社)、2019年

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土佐市複合文化施設
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土佐市複合文化施設。ホール内観。撮影:中村絵  ▶

土佐市複合文化施設
所在地:高知県土佐市高岡町/主要用途:図書館、ホール、公民館等/竣工:2019年/発注者:土佐市/設計:マルアーキテクチャ・聖建築研究所設計共同企業体/施工:戸田・豚座・尾崎特定建設工事共同企業体/敷地面積:3,779.63㎡/建築面積:2,767.85㎡/延床面積:10,857.22㎡/階数:地下1階、地上4階、塔屋1階/構造:免震構造、RC造(地下階)、S造(地上階)/工期:2018年2月〜2019年10月

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選考評
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 パブリックな空間の評価のひとつは、如何に人びとの日常生活の場所になり得るかという点であると思う。「なんとはなしに長居をしてしまう家というのが一番よい家である」と言ったのは、建築家の吉田五十八であるが、この土佐市文化複合施設には、そうした長居をしたくなるような空間の質がある。建築家の「道空間」というコンセプトが流れる場所と適度に留まれる場所をつくり、清々しくも穏やかなスケールの建築となっている。
 この「道空間」という建築家の構想に構造家が寄り添い、全体のヒューマンなスケールに構造が溶け込んでいることがこの建築の成功につながっている。全体を免振構造にすることで構造部材のスケールを落とし、なおかつ座屈拘束材として木材を使用した斜格子耐力壁は、構造壁でありながら、家具的なスケールと質感をつくり出し、この内部空間を特徴づけている。これが外装の市松模様と呼応した伝統的な三つ組手模様という日本の伝統的な文様となっている点も、意匠と構造の絶妙な連携を思わせる。

篠原 聡子(選考委員・建築家)

 応募作品は図書館・ホールなどの複合用途からなる公共建築であり、地下駐車場に設けられた高減衰ゴムによる柱頭免震、細めの柱と斜材を用いた鋼構造で大小の多様な空間が創出されている。
 「斜格子耐力壁」と呼ぶ複数の平鋼斜材からなるブレースユニットでは、平鋼交点を緊結することで引張材が圧縮材を曲げ座屈補剛するという一般的手法ではなく、水平に設けたベイマツ集成材で挟み込む補剛方法を採用し、内部空間とうまく調和させている。また、250mm×250mmの柱も心地よいスケール感である。板厚50mmのTMCP鋼の採用とその溶接、連層斜格子壁と境界梁のバランスなど構造視点で多少気になりながらも、さまざまな工夫をもって意図する空間を創造している点を高く評価したい。
 また、木造をはじめとする多くの実績もあり、坂田涼太郎さんは日本構造デザイン賞に相応しい構造家であると考える。

向野 聡彦(選考委員・構造家)

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