2020年第15回
日本構造デザイン賞

総合選考評

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田尾 玄秀
(たお・ひろひで)

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田尾 玄秀

経歴(受賞時)
1974年 愛媛県生まれ
2002年 横浜国立大学工学部卒業
2004年~2013年 (株)オーク構造設計勤務
2013年 樅建築事務所設立
2018年 東京大学大学院博士課程修了、博士(農学)
2014~2017年 武蔵野美術大学非常勤講師
2018~2019年 芝浦工業大学特任准教授

主な作品
宝積寺駅 橋上駅舎・自由通路(2008)
小布施町立図書館まちとしょテラソ(2009)
金沢海みらい図書館(2011)
東急池上線戸越銀座駅(2016、稲山正弘氏と協働)
高知県自治会館新庁舎(2016、佐藤孝浩氏と協働)
竹田市立図書館(2017)
益子の住宅(2017)
eggg Café(2018)
にしあわくらほいくえん(2018)
慶応義塾大学SFC教育研究発表棟(2019、稲山正弘氏と協働)
関町東の集合住宅/コモレビルディング(2019)
河谷家の住宅(2019)

著書
『JIS A 3301:2015 木造校舎の構造設計標準』(共著、JIS原案作成委員会)

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東急池上線旗の台駅
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⻩昏時の下りホーム全景。撮影:東急電鉄

東急池上線旗の台駅
所在地:東京都品川区旗の台2丁目13-1/主要用途:駅施設/竣工:2019年/発注者:東急電鉄/設計:鈴木靖(アトリエユニゾン)、奥村政樹(09.design)/施工:清水建設/敷地面積:2,530 ㎡/建築面積(屋根水平投影面積):985 ㎡/階数:平屋/構造:木造+鉄骨造+鉄筋コンクリート造/工期:2017年11月~2019年7月

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選考評
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 東京は公共交通によって成立している都市である。東京および東京圏の網の目状の公共交通機関のネットワーク(鉄道、地下鉄、バス、多少の電車)は、世界のさまざまな都市の中でも類稀なレベルの密度である。清潔な駅空間と各交通機関の正確な運行、ICカードを利用した他社線との相乗りの容易さが東京圏3,800万人という世界最大の経済都市圏の基盤となっている。ところが、その駅舎やプラットホームの印象は(清潔という共通点を除くなら)驚くほど希薄である。近代的かつ機能的だがきわめてアノニマスでどの駅も同じようなしつらえなのでまるで区別がつかない。
 本案件は既存の駅ホームの改修工事であるが、改修後の旗の台駅は没個性的ではないし、改修結果としてでき上がった木架構主体の空間のスケール感や素材感がいかにも気持ち良い。
 京都の東福寺方丈や龍安寺の軒空間に見られる寺社建築の架構とは、いうまでもなく、イコールではない。
 だが、夜間工事しかできない条件下で既存のホーム上屋の上に新しい上屋をいかに架構するかというチャレンジのなかで、RC埋め込み式CLT掘立壁柱と、100mmφの細い鉄骨丸柱間にトラスを掛け渡し、それを手がかりに105mm角製材による支点桁架構を行うという多種の構造形式の併用が、ひとつのシンプルな美しい提案に到達しているとしたら、それは長い伝統を持つわが国の木構造にひとつの新たな可能性を提示したといっても言い過ぎではないだろう。

渡辺 真理(選考委員・建築家)

 受賞作品は老朽化した駅木造ホームの改築工事であり、駅機能を維持した状態で建て替えを可能とするために、既存の旧上屋を覆うように新上屋を構築するという計画である。軌道に近接する施設の建設では、車両の運行や駅利用客に対する安全性の確保はもとより、施工時間の制約、狭小な作業空間、使用可能な施工機械の制約など、多くの課題が重なり、通常では合理的と思われる構造システムや工法なども、これらの制約の中でひとつひとつ再検討と評価が求められることになる。
 受賞者は、過去に携わった同一鉄道事業者の類似プロジェクトの経験を活かし、本計画では上記のさまざまな制約を乗り越え、採用する素材及び構造システムの両面において、非常に創造的な提案と解決を行い、意匠と機能性が両立したホーム空間を実現した。
 プラットホームの軌道側は、径100mmの無垢鉄骨円柱が最大スパン12mで配され、その間に木材で被覆した鉄骨トラス梁を渡し、この梁に軌道側に跳ね出しを有する木造屋根架構を載せている。結果として非常に視認性と開放性の高いホームが実現している。
 ホームの屋根は、多摩産材を活用したヒノキ105mm角製材により構成した架構であるが、4m材で5mを超えるスパンを架け渡すため、「支点桁架構」が採用され、「支点桁架構」の対となるひとつの架構から、「方杖庇」が軌道側に大きく持ち出されている。この構造システムが30cm間隔で桁方向約70mにわたり繰り返されており、非常に印象的な空間となっている。この構造の接合部には在来軸組みのプレカット技術を用いた「ホゾ差し篏合接合」とビス打ちの併用システムを用い、多数の接合ボルトが露出しがちな一般的な木造の接合部に比べ、実に切れ味の良い接合部の表現となっている。
 軌道の反対側は、CLT壁とRC造壁が複合した連続する構造体を配し、これに架構全体の面外及び面内の水平力を負担させている。CLT壁脚部やCLT壁相互の接合部などには巧みなディテールを採用し、施工性の向上やコストダウンを図っている。
 この様な、軌道に近接する工事の計画や工法の決定には、計画の初期段階から構造設計者の関与と適切な判断が重要となるが、現地でのヒアリングにおいても受賞者の大きな役割と関与を伺い知ることが出来た。
 また、受賞者はこれまでも「金沢海みらい図書館」をはじめ多くの建築作品において、卓越した構造設計力により素晴らしい建築空間を創造しており、まさに日本構造デザイン賞にふさわしい構造家である。

丹野 吉雄(選考委員・構造家)

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