2020年第15回
日本構造デザイン賞

総合選考評

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木下 洋介
(きのした・ようすけ)

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木下 洋介

経歴(受賞時)
1978年 神奈川県生まれ
2003年 東京工業大学大学院環境理工学創造専攻修了
2003年 金箱構造設計事務所入社
2011年 木下洋介構造計画設立
2012年~工学院大学、芝浦工業大学非常勤講師

主な作品
家の家(2013)
オガールベース(2014)
天童市子育て未来館 げんキッズ(2015)
かがやきロッジ(2017)
みしま未来研究所(2019)
あさひ会計 セミナー棟(2019)

著書
『構造設計を仕事にする─思考と技術・独立と働き方─』(共著、学芸出版社)
『子育てしながら建築を仕事にする』(共著、学芸出版社)

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ちぐさこども園
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ちぐさこども園。扇形に広がる明るく開放的なホール。撮影:新建築社

ちぐさこども園
所在地:群馬県沼田市/主要用途:こども園/竣工:2015年/発注者:学校法人 櫛渕学園/設計:仙田満+環境デザイン研究所/施工:角屋工業/敷地面積:2,696 ㎡/建築面積:854 ㎡/延床面積:801 ㎡/階数:地上1階/構造:木造、一部鉄骨造/工期:2015年1月〜2015年12月

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選考評
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 子どもにとって最初の社会的な空間となる幼稚園、保育園、そしてこども園には、集まる空間としての社会的で包容力のあるスケールと、住宅のような親密感のあるスケールの双方が求められる。こうした幼児の空間に求められるアンビバレントな要求を、扇形の平面計画とダイナミックな木造の断面形状によって解いている。高い天井をもつシンボリックなホールとヒューマンスケールな保育室、自然に戸外へとつながるテラスという構成のうちに、見事に求められる空間が具現化されている。また、木造の架構も適切にスチールの部分と組み合わせられることで、無理なく大らかなで多様な空間が一流れの構造の中に包摂されており、計画、意匠、構造の連携がとれた好事例となっている。

篠原 聡子(選考委員・建築家)

 「ちぐさこども園」は群馬県沼田市の高台に建つ認定こども園である。ステージを要とするホールから複数の保育室へと広がり園庭につながる扇形の空間構成で、上昇感のあるホール天井が印象的な木造建築である。部分的にSやRCを用いることで、力学性能と部材スケールに配慮されたハイブリッドでもある。施工性やコスト等の検討を経て実現した形態と構造は、シンプルな放射方向の釣合系を基本にしながら雪や風などの偏在荷重等には立体効果も期待される。また、構造要素やその隙間も遊具の一部になっているのも興味深い。
 一般的にあらゆる点で優れているモノやコトは稀であり、構造における材料や仕組みも同様である。時代の追い風もあり木造が採用されることが増えてきているが、さまざまな配慮がなされてこそ、その良さが安心感をもって得られる。木下洋介さんは、これまでに木造とRC耐力壁を組み合わせることで空間と耐震性を整合させることなどを実践されてきており、本件ではスチールをフェールセーフとして組み合わせることで引張系木造のクリープ問題を解決されている。
 構造デザインのプロセスに、時代性や社会性を考えながら取り組まれている姿勢と構造性能に対する鋭い洞察が感じられ、木下洋介さんは構造デザイン賞に相応しい構造家であると考える。

向野 聡彦(選考委員・構造家)

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