2018年第13回
日本構造デザイン賞

総合選考評

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山脇 克彦
(やまわき・かつひこ)

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山脇 克彦

経歴(受賞時)
1968年 大阪市生まれ・奈良県出身
1992年 神戸大学大学院工学研究科環境計画学専攻修了後、日建設計※1入社
2009年 北海道日建設計※2出向
2015年 日建設計退社後、山脇克彦建築構造設計設立

主な作品
國學院大學120周年記念1号館※1
モード学園スパイラルタワーズ※1
ヤマハ銀座ビル※1
重要文化財旧下野煉化製造会社煉瓦窯耐震診断補強設計※1
陸別小学校※2
北見信用金庫紋別支店※2
苫小牧信用金庫まちなか交流館※2
大通駅5番・6番出入口※2

籤 -HIGO- ※2
丘のまち交流館 bi.yell
WALL CANOPY
NORTH FARM STOCK増築店舗
北光の家
神社山の隠れ鳥居の家
掘立柱の家
Le Pont
Table
清水町バスシェルター
当麻町庁舎

著書
『構造デザインの歩み―構造設計者が目指す建築の未来』(共著)JSCA構造デザインの歩み編集WG
『建築画報No.344 「挑戦する構造」』(共著)建築画報社

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籤 -HIGO-
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コルクブロックが特徴の正面外観 撮影:KEN五島

籤 -HIGO-
所在地:札幌市中央区円山西町/主要用途:事務所/発注者・設計:nAナカヤマアーキテクツ/構造設計:北海道日建設計/施工:(分離発注) オーエーテック(鉄骨工事)/敷地面積:370.20 ㎡/建築面積:126.14 ㎡/延床面積:331.20 ㎡/階数:地上3階、高さ 9.6m/構造:鉄骨造/施工期間:2013年7月〜2014年7月/撮影:KEN五島

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選考評
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 札幌円山公園に隣接して建つ「籤 –HIGO-」は、「森の中で感じるような空間の質」、「構造から解き放たれた建築」(施主兼建築家 の中山眞琴さん)を目指して計画された。
 間口12.56m×奥行9.10mの外皮全周に鋼板の棚が設けられ、本が並ぶ鋼板構造の背板部分と棚越しの開口部が同在する。普通なら建物のどこか一部に置かれる棚が建築の主要構造となり、それが家具スケールのままの軽やかな寸法で現れることで、壁と開口部という対比的な構成要素がさらりと一元化された美しい内部空間を実現している。垂直力を受ける60mm角の独立柱は領域を柔らかく仕切り、緩やかな変化を持つ場をつくる。細さ、薄さ、小ささを目指すミニマムな架構は他にも事例があるが、鋼材をそのテクスチュアもろとも徹底的に現しながら、それが力学的表現に向かうのではなく様相として見えることで、身体に馴染む建築となっていることを評価したい。

高橋 晶子(選考委員・建築家)

 山脇氏は、キャリアの大半を過ごした日建設計において、「モード学園スパイラルタワーズ」や「國學院120周年記念1号館」などの高層・大規模建築で多くの優れた実績を残してきた構造設計者である。山脇氏の転機は2009~2013年に所属した北海道日建設計への出向で、それまで携わることの少なかった小中規模建築や木造の道内プロジェクトにも意欲的に取り組み、新たな境地を開拓した。受賞作品となった「籤-HIGO-」はまさにその時代のもので、山脇氏の多様な建築の実現に寄与してきた実績と、持ち得る限りの知見やネットワークをひとつのプロジェクトに投入していくスキルがいかんなく発揮されている。
 多層の鋼板棚板を建物外周に配したロの字の構面を4隅の組み柱に繋ぐことで、さりげなく極小柱の座屈を抑えつつ水平耐力を持たせている。その極限ともいえる構造は、機能が優先される小規模なオフィス・店舗の建築では、ピュアであるが故に一般には採用しにくいかもしれない。それに対し、建築家を巻き込みながら、あたかも大規模建築をそのままスケールダウンしたような高密度の構造を、綿密なディテール検討を経て具現化していく山脇氏の手腕は鮮やかで、各フロア110㎡強の小空間とは思えない緊張感と広がりを併せ持った鉄の空間を実現している。
 2013年に日建設計に復帰し、部長を務め上げた後、2015年に自身の事務所を起ち上げた異色の経歴を持つ山脇氏のさらなる展開が期待される。

山田 憲明(選考委員・構造家)

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