2018年第13回
日本構造デザイン賞

総合選考評

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谷川 充丈
(たにがわ・みつたけ)

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谷川 充丈

経歴(受賞時)
1976年 千葉県生まれ
2001年 東京工業大学環境理工学創造専攻修士課程修了
2001年 久米設計
2007年 Arup

主な作品
東京音楽大学100周年記念本館
中庭の家
ROKI Global Innovation Center - ROGIC -
長谷川体育施設本社
HULIC &NEW SHIBUYA
NICCAイノベーションセンター

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NICCAイノベーションセンター
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執務空間コモン(2階) 撮影:新井隆弘

NICCAイノベーションセンター
所在地:福井県福井市文京4-23-1/主要用途:研究施設/竣工:2017年/発注者:日華化学株式会社/設計:小堀哲夫建築設計事務所/施工:清水建設株式会社/敷地面積:12,360.37 ㎡/建築面積:2,838.51 ㎡/延床面積:7495.73 ㎡/階数:地上4階/構造:SRC造、一部S造/工期:2016年8月〜2017年11月/撮影:新井隆弘

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選考評
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 構造デザインには、構造要素自体が建築表現として表出するものと、一見、構造デザインの役割を意識させないが、建築の実現に大きく寄与しているものがある。受賞作は後者の秀逸な事例である。建築家が描く空間は、複数の「コモン」が重層的に絡み合い、さまざまな場所が立体的に交錯する。谷川氏は構造的な視線で俯瞰し、そこから浮かび上がる「貫通する背骨」を捉えて剛強なSRCの耐震コアにする。すると魔法の眼鏡をかけたように、複雑な空間構成が解けて構造がクリアに見え始める。背骨の両側の空間はフレキシブルに対応できる鉄骨造。構造計画の始まりはとても鮮やかだ。谷川氏は、建築家が自由に繰り返す創造と小さな破壊を注意深く見つめ、鉄骨の領域にも的確な位置にRCの耐震壁を挿入し、構造計画の精度を上げていく。存在感のあるRCの壁はユニークな環境装置として生かされていく。こうしたプロセスに光をあてるところに賞を授与する意義があると私は考える。谷川氏があふれ出す情熱で意匠や設備の領域に越境し、設計の場にダイナミズムを生み出していたことが、現地をご案内いただいた施主と建築家のお話しから伺えた。この賞にふさわしい受賞者を選出したことを確信した。

桝田 洋子(選考委員・構造家)

 日本建築学会賞をはじめ多くの建築作品賞を受賞した「ROGIC」は、建築家である小堀哲夫氏と谷川氏の構造設計によるものである。そのふたりの設計による本受賞作品である「NICCAイノベーションセンター」は、クライアントが開催した指名コンペによって選ばれている。
 建物の構成は、1階を社外の方々との交流の場であるパブリックスペースとし、上部階を2層吹き抜けによるオープンな執務スペースと実験室を有した、開放的でありながらも落ち着いた空間としている。
 さらに屋根のスリットから取り込まれた光は、耐震要素である壁を反射板とすることで、執務スペースを柔らかな光で満たしており、機能と構造、環境等のあらゆる要素が見事に統合されている。
 この空間に対し谷川氏は、3種類のフレーム(耐震フレーム、フレキシブルフレーム、ファンクショナルルーフ)による明快な構造システムを提案し、その構成部材を繊細な設計によって断面を選定している。谷川氏の建築に対する熱い思いと真摯な姿勢、クライアントと設計チームの信頼関係と前向きに取り組む体制が、建築の構成と空間に見事に反映された日本構造デザイン賞にふさわしい素晴らしい作品である。

多田 脩二(選考委員・構造家)

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