2015年第10回
日本構造デザイン賞

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桝田 洋子(ますだ・ようこ)
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枡田洋子

経歴(受賞時)
1959年 大阪府生まれ
1984年 京都工芸繊維大学工芸学部住環境学科卒業
1993年 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科修了
1984年 川崎建築構造研究所入社
1989年 桃李舎設立

主な作品
2005年 西有田タウンセンター(JSCA賞作品賞)
2008年 豊崎長屋
2008年 志井のクリニック(日本建築学会作品選奨)
2010年 長崎港松ヶ枝国際フェリーターミナル
2013年 八光自動車ジャガー・ランドローバー京都
2014年 佐世保港国際フェリーターミナル

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行橋の住宅(JUUL House)
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撮影 テクニ・スタッフ 岡本公二

行橋の住宅(JUUL House)
所在地 福岡県行橋市/用途 個人住宅/設計・監理 NKSアーキテクツ/末廣香織・末廣宣子/ 施工 緒方組/敷地面積 1,125.67m2/建築面積 319.76m2/延床面積 351.25m2/ 階数 地上3階/構造 鉄筋コンクリート造/工期 2011年9月〜2012年6月/撮影 テクニ・スタッフ 岡本公二

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選考評
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 現地で外観を眺めてみた印象と、家の中で感じた空間性が、実に等価なダイナミックな住宅であった。一般住宅というよりもミニコンサートホールと称したほうが、建築の持つ特性をよく表しているのかもしれない。住み手のライフスタイルや、音楽活動とも応答しているデザインであり、それを上手に構造が答えている。
 その個性的な内部と外部の空間を構成しているのが、サブタイトルにもなっているJUULという、J型U型のコンクリート梁の構造体。U型の内側は個室になって上の部屋を構成し、その外側は1階の空間の天井として、何とも個性的な空間を生み出している。低さと高さの両方を備えた、とっておきの空間である。1階平面を構成する壁の向きと、上階を構成する梁の向きが直交していることもあって、一見するとどのような構造計画がなされているのか分からないほどである。完成度の高い設計と施工が、この構造形式をさらに引き立て、住み手のセンスがさらに輝いて、素晴らしい住宅が実現している。

工藤 和美(選考委員・建築家)

 建築にストーリーがあるように、設計プロセスにも物語がある。桝田氏の応募申請書自体も物語のようであり、氏の構造設計プロセスを追体験できるユニークなものであった。
 建築家の提案する形態を「俯瞰し、重力を感じながら細部をぼかして丸ごと全体を大づかみするような目で眺める」ことで、その本質を捉えるという桝田氏の構造デザインの手法は、施主の与件や建築家の提案の中からシンプルで明快な構造システムを洗い出すような丁寧なプロセスである。2階のチューブ状の空間を大きな桁と見立て、それを1階から伸びる壁柱で支持するという明快な構造システムを、多様で豊かな内部空間を実現するために、将来的な改修の可能性まで見据えて細やかに調整されている。同じ建築家と構造家が17年間、30件のコラボレーションを通して培ってきた確かな協働関係が、秀逸な建築作品を生み出していることが実感できる。
 大胆な空間構成を、合理的な構造計画へと翻訳し、明快で精緻な構造デザインによって魅力的な建築空間へと昇華させた本プロジェクトは、桝田氏の構造家としての力量を充分に示し、日本構造デザイン賞に相応しいと考える。

金田 充弘(選考委員・構造家)

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