2015年第10回
日本構造デザイン賞
松井源吾特別賞

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石井 一夫(いしい・かずお)
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経歴(受賞時)
1934年 横浜生まれ
1958年 横浜国立大学建築学科卒業
1965年 東京大学大学院博士課程修了
1966年 横浜国立大学助教授
1986年 横浜国立大学教授
2002年〜 (一社)日本膜構造協会会長

受賞
1994年 日本建築学会賞 業績部門「膜構造の設計法に関する一連の業績」

1998年 IASS(シェルと空間構造に関する国際会議)Tsuboi賞
「Membrane Structures in Japan ― Technologies for Supporting Membrane Structures」

基準類の作成
2003年 「膜構造の建築物・膜材料等の技術基準及び同解説」編集委員会委員長

2003年 (社)日本膜構造協会 試験法標準「膜材料の品質及び性能試験方法(MSAJ/M-03-2003)」作成委員会委員長

1995年 (社)日本膜構造協会 試験法標準「膜材料弾性定数試験方法(MSAJ/M-02-1995)」作成委員会委員長

日本膜構造協会会長の立場としての協会作成の指針類
2006年 膜構造の建築物・膜材料等の技術標準(膜構造建築物品質管理規準、膜構造建築物維持保全指針、 膜材料等品質規準、膜体加工指針、膜構造建築物施工指針、テント倉庫建築物施工指針)

2008年 膜構造建築物の維持保全マニュアル

著書
『膜構造の設計』工業調査会、1969年(安宅信行/共著)
『建築材料』彰国社、1971年
『建築空気膜構造・設計と応用』工業調査会、1977年
『日本の膜構造』エス・ピ−・エス出版、1993年(編著)
『世界の膜構造デザイン』新建築社、1999年(編著)
『Structural Design of Retractable Roof Structure』WIT Press、2000年(編著)

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業績:膜構造デザインの材料・設計法に関する永年の業績
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浮かぶ屋根 設計:石井一夫研究室   

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選考評
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 2015年3月、プリッカー賞の授賞式(5月15日)を目前にして巨星フライ・オットーが逝った。享年89歳。かつてオットーを軽量構造の世界へと突き動かしたのは吊構造の端緒、ローリーの競技場(1951年)であったという。そこから生まれたオットー最初の傑作といわれるケルンのダンス場(1957年)は、今も健在である。
 そして1960年代、国立代々木競技場(1964年)を契機に広がった大空間や張力構造デザインへの憧れは、当時の若いエンジニアの心をかきたてた。私もそのひとりであったが、石井先生の情熱は信じ難く大きかったに違いない。海外渡航もままならぬ1965年ごろであろうか。同僚(横浜国大)の安宅信行氏と共に西ドイツへと飛ぶ。訪ねた先は当時モントリオール博(1967年)の西ドイツ館を設計中のフライ・オットーやstromeyer研究所。キャンバスの設計や施工法の調査・研究が目的であった。その時、師の飯塚五郎蔵教授は語っている。「まさに、膜構造に憑かれた男たちだ」と。Membraneは「膜構造」と、初めて訳される。石井先生の50年にわたる膜構造への取り組みはここからスタートしたのだ。

 石井先生の業績は大きく3つの分野と考える。
第1は、膜構造の材料と構造特性に関する基礎研究と建築への応用についての著作活動である。一般の建築材料と比べ馴染みのない膜材の特性とその設計法についての研究論文を数多く発表している。また膜構造の有用性と安全性を認識させながら、極めて有効な構造法として確立させることに大きな力となった次の著作・出版は評価されよう。

  『膜構造の設計』(1969年、工業調査会)
  『建築空気膜構造・設計と応用』(1977年、工業調査会)
  『世界の膜構造デザイン』(1999年、新建築社)

 第2は、日本膜構造協会における中心的かつ精力的な活動である。同協会はテント膜構造研究会(1966年)、空気膜構造協会(1971年)を経て1978年、社団法人となった。協会では膜構造の安全性や健全な発展に資するため各種の研究会を設け、その成果を基準や指針としてまとめてきた。これらほとんどは石井先生が委員長として、あるいは会長(2002年〜)として主導したものである。

  『膜構造の建築物・膜材料等の技術基準及び解説』(2003年)
  『膜構造建築物の維持保全マニュアル』(2008年)

 第3は、国際的活動、特にIASS(国際シェル・空間構造学会)における膜構造分野の活躍であり、Tsuboi Award(1988年)を受賞していることからも、日本におけるこの分野に対する貢献度の高さが認められよう。また同学会ではWG16 "Retractable Roof" の主査を務め、その活動成果として"Structural Design of Retractable Roof Str".(2000、WIT Press)が出版されている。
 石井先生とは長くお付き合いさせていただいた。ステーキとゴルフが大好き。ひたむきな膜建築への熱い思い。東京ドームの基本計画検討研究会で同行したアメリカのエアードームやモントリオールの開閉屋根なども懐かしく思い出される。
 話題が沸騰している「新国立」の可動膜や透明膜。石井先生と共にもっと初期的に、その現実性について議論したかったと思わずにいられない。日本の膜構造発展の礎を築かれた永年の業績に心から敬意を表します。

斎藤 公男(構造家)

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