2015年第10回
日本構造デザイン賞

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柴田 育秀(しばた・いくひで)
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柴田育秀

経歴(受賞時)
1962年 秋田県生まれ
1986年 茨城大学工学部建設工学科卒業後、株式会社類設計室入社
1996年 Arup入社、現在、シニアアソシエイト、ビルディングエンジニアリングリーダー
2011年〜 慶應義塾大学大学院非常勤講師

主な作品
1998年 ビッグパレットふくしま
2000年 MIND-BODY COLUMN
2001年 豊田スタジアム
2004年 ドコモ大阪南港ビル通信用鉄塔
2006年 ソニーシティ
2007年 ノマディックミュージアム東京
2008年 一宮邸
2008年 東京モード学園コクーンタワー
2011年 カダーレ
2012年 森鴎外記念館

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Ribbon Chapel
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南東より見る。写真提供:Arup / ©Nacasa & Partners Inc   

Ribbon Chapel
所在地 広島県尾道市/ 主要用途 チャペル/ 竣工 2013年/ 発注者 ツネイシホールディングス/ 設計 (建築)中村拓志&NAP建築設計事務所、(構造・設備・照明・音響コンサル)Arup/ 施工 ピーエス三菱/ 敷地面積 約3000m2/ 延床面積 72.2m2/ 階数 地上1階/ 構造 鉄骨造/ 工期 (設計)2011年2月〜2012年12月、(施工)2013年1月〜12月/ 撮影 Nacasa & Partners Inc

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選考評
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 建物は西側に瀬戸内海を見下ろす高台に建つ、リゾートホテルに付属する結婚式場兼見晴台である。現地をご案内いただいたNAP建築設計事務所の担当者、 大谷泰弘さんによれば、「Ribbon Chapel」というタイトルは、クライアントへの最初の提案の時からのものだという。 扉に「赤い糸」が空中で絡み合うスケッチが付された提案書に描かれた建築イメージは、ほぼ実施案に直結するものだった。 逆方向の螺旋が頂部で連結された形態は建築家のアイデアである。ただ、柴田育秀さんが最初の打ち合わせで見た模型は「すこしグラグラしていた」。 建築家のアイデアを、そしてクライアントの夢を現実のものとするのは、ひとえに構造家の手腕にかかっていた。螺旋が交差する部分に設けられた連結梁、 自由曲線の螺旋の二次円弧への置換、自重変形分を逆方向にオフセットした構造モデル、さらには、部材形状や溶接方法のVEなど、柴田さんはその期待に見事に応えた。

大森 晃彦(選考委員・建築評論家)

 柴田氏は、アラップ東京事務所の指導的な立場で事務所全体を牽引しつつも、自らの担当プロジェクトでは建築家との協働により数々の優れた作品を残してきた構造家である。 ビッグパレットふくしま、豊田スタジアム、ソニーシティなど、氏の構造作品と呼べるものは枚挙に暇がない。
 受賞作品となった中村拓志氏設計のRibbon Chapelは、瀬戸内海の美しいしまなみを見下せる広島県尾道市の小高い山の中腹に建つドラマチックなチャペルである。 パイプと鋼板でつくられた頂部の展望台でつながる二重の緩やかな螺旋階段は、この神聖な礼拝空間を包む外皮であり、この建築の構造そのものである。 単体ではバネのように柔らかい逆向きの螺旋構造をさりげなく4本の梁で連結し、サッシ面に無垢鋼の間柱を建てることであらゆる方向に対する剛性を高めている。 さらに、基礎免震構造の採用による高い耐震性能の獲得と上部構造の洗練や、TMDによる振動抑制等、設計上の配慮に余念がない。 建築と構造が見事に統合されたこの稀有な建築の実現に対する氏の貢献は察するに余り有るものであり、日本構造デザイン賞を授与するものである。

山田 憲明(選考委員・構造家)

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