2014年第9回
日本構造デザイン賞

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森部 康司(もりべ・やすし)
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経歴(受賞時)
1976年 愛知県生まれ
2001年 名古屋大学大学院工学研究科
    建築学専攻修士課程修了
2001年 (株)オーク構造設計入社
2006年 昭和女子大学環境デザイン学科年
    専任講師
2014年 同大学准教授

主な作品
2009年 地層の家
    (NAP建築設計事務所)
    象の鼻パーク/テラス
    (小泉アトリエ)
2010年 JFEケミカル・ケミカル研究所
    (木下昌大建築設計事務所)
2011年 シナの木と白い家
    (高橋真紀+潮上大輔)
2013年 一橋大学空手道場
    (木下昌大建築設計事務所)
    豊島横尾館
    (永山祐子建築設計)

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熊本県立球磨工業高等学校管理棟
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北側外観。内部は図書室。

熊本県立球磨工業高等学校管理棟
所在地 熊本県人吉市/主要用途 高等学校(管理棟)/設計・監理 建築:ワークステーション・モードフロンティア・萩嶺設計共同体 構造:昭和女子大学 森部康司 電気設備:大瀧設備事務所(設計) アール設備企画(監理) 空調・衛生:イーエスアソシエイツ/施工 味岡・速永建設工事共同企業体/敷地面積 70,097m2/建築面積 1,094.36m2/延床面積 1,711.75m2/階数 地上2階 渡り廊下一部3階/構造 木造一部鉄筋コンクリート造 鉄骨造(渡り廊下)/工期 2012年7月〜2013年7月

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選考評
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 独立して間もない頃、木村俊彦先生に構造設計をお願いすることになった(恐れ多いことに)。開口一番、「僕は気に入らない建築デザインの構造はやらないよ」とおっしゃった。建築デザインに対して目利きの先生だから当然のことだろう。「今、先生が関心のある構造形式はなんでしょうか?」とお聴きした。「そうだなぁ…、コンクリートシェルかな」。「ハイ!!」。「それと木の立体トラスだね」。「ハイ!!」。
 こうして「黄島神殿」(コンクリートシェル/1989年)、「黄島道場」(木造立体トラス/1991年)が完成した。先生のご本にも載せていただいたので、建築デザインも気に入っていただけたのだと思う。
 森部康司さんの「木ダボ継手を用いた木造積層壁構造」からは、建築家との「絶妙な対話」が随所に読み取れる。供給・流通、さらに意匠を考慮した熊本県産スギ無垢材のダボ継手(材軸方向28本の長いダボなどは見せたいくらいだ)による逆三角形の積層壁の林立は洞窟に入ったような密実な空間性を獲得している。
 建築デザインと構造デザインの緊張感あるバランスが、優れた「建築作品」を生むとすれば、この建築における森部さんと建築家との一期一会の出会いはその好例であろう。

栗生 明(選考委員・建築家)

 まず、球磨工業高校が素晴らしい学校である。伝統建築専攻科で未来の棟梁を養成し、機械科と電気科の学生が協働してロボコン全国大会で常に上位入賞する。ものづくりの未来を担うであろう高校生は、設計者が「木の洞窟」と呼ぶここにしかない建築空間が、設計者と施工者のコラボレーションで創り出される現場に何を見ただろうか。
 森部氏は木造の専門家ではない。だからこそ、材の選択、使い方、継ぎ方、納まりなど、製作者・施工者と話し合い、実験を繰り返しながら慎重に考え、自身の納得の上に各ディテールがデザインされていることが分かる。120x180mmのスギ材を積層した壁は一見シンプルな1枚の巨大な逆三角形に見えるが、600mm幅を1ユニットとして分節化し、場所ごとに役割の違いを反映した異なるディテールとなっている点が独創的であり、また森部氏の苦悩・工夫の跡がみられる。
 とても慎重に、大胆な試みを実現していく術を体得している構造家である。

金田 充弘(選考委員・構造家)

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