2011年第6回
日本構造デザイン賞

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鈴木 啓(すずき・あきら)
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経歴(受賞時)
1969年 神奈川県生まれ
1996年 東京理科大学大学院理工学研究科修士課程終了
1996年 (株)佐々木睦朗構造計画研究所入社
2001年 (株)池田昌弘建築研究所入社
2002年 鈴木啓/ASA 設立

主な作品
2006年 輪の家(TNA)
2008年 廊の家(TNA)
2009年 nowhere but sajima(吉村靖孝建築設計事務所)
2010年 地中の棲処(SUEP)
2010年 ルネヴィレッジ成城(コンテンポラリーズ)
2010年 DR Congo ACADEX elementary school(慶應義塾大学松原弘典研究室)

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えんぱーく(塩尻市市民交流センター)
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内観写真。(撮影:大野繁)   ▶

えんぱーく(塩尻市市民交流センター)
所在地 長野県塩尻市大門一番町612-4/ 主要用途 図書館、市民交流センター、子育て支援センター、事務所、飲食店舗/ 竣工 2010年/ 発注者 大門中央通り地区市街地再開発組合/ 設計 コンテンポラリーズ/ 施工 北野建設・松本土建特定建設工事共同企業体/ 敷地面積 4,937.45m2/ 建築面積 3,388.71m2/ 延床面積 11,901.64m2/ 階数 地下1階、地上5階/ 構造 鋼板鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造/ 工期 2008年11月〜2010年8月

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選考評
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応募資料に表現された、X-Y軸に沿ってランダムに配置された壁柱が魅力的だった。その壁柱が3層の内部構造空間をつくり、その上部にはボイドスラブの人工基盤が置かれている全体構成にも興味を惹かれて、現地審査に臨んだ。壁柱の垂直性がどのように空間性に反映されているか、これが興味の焦点であった。
3層の内部には地域活性化拠点としての図書館を軸に、多様な公共機能がおさめられており、ボイドスラブ上の4階にはビジネス支援のための空間、イベントホールや芝生広場、展望広場などが設けられている。
壁柱はすべて高さ11.4m、厚さは200㎜のプレキャストコンクリートに6㎜の鋼板を当てた206㎜、幅は1,250㎜とその倍の2,500㎜および現場でこれらを組み合わせた3,750㎜と5,000㎜の4種類が合計97本、建物全体が偏心しないように幅が選択され、レイアウトにも配慮がなされたとはいえ、これが成立している最大の要因は免震構造の採用にある。
この壁柱は面外剛性が小さく、2、3階のスラブを構成する格子状の鉄骨梁との接合部はガセットプレートによるピン接合として、面外方向の曲げを最小化するように配置されている点、面外に曲げが入ってしまう部分においては、鋼板面が曲げによる引っ張り側に来るように配慮されている点なども、このような空間を成立させるために技術的解法として評価されるべきポイントであろう。
基本的には6㎜の鋼板には応力を負担させず、地震時の剛性割増しと長期の座屈補剛材として考えられており、火災時にはPCだけでも座屈しないので耐火被覆が不要のため、シャープ仕上げとなっている。また、鋼板はPC製作時にベッド面に敷かれ、スタッドボルドでPCと一体化されており、いわば打込みプレートといえよう。
内部には3層吹抜けの4つのコートが設けられて、それぞれに「水」「太陽」「月」「森」と名付けられており、トップライトから降り注ぐ光とともに、壁柱を特に強調した、垂直性が感じられる空間となっている。
一般的なラーメン構造では柱がグリッド状に配置され、これらを結ぶ壁によって領域がはっきりと分節化される。しかし、「えんぱーく」のように壁柱で構成された空間では、それぞれに異なったアクティヴィティを持つ空間領域がお互いに浸潤しあうことになる。とくに3階の市民サロンでは、それが活性化に向かうための役割を果たしていると思われる。
このことは一方で、混乱に向かう可能性もあるが、運営方法とともに使用する当事者たちの意識の問題となるのだろう。ここでこのことに関する是非を問う必要はなく、むしろ3層にわたって、あらゆるところに視線が通るような空間には、ある種の爽やかさを感じることができた。また壁柱のひとつの面が白く塗装された鋼板であることもサイン計画などには有効に働いていると思える。
結果として壁柱による新しい空間構成が実現しているという点で、審査員一同の賛意を得ることとなった。

中谷正人(選考委員・建築ジャーナリスト)

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