2011年第6回
日本構造デザイン賞

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大野 博史(おおの・ひろふみ)
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経歴(受賞時)
1974年 大分県生まれ
2000年 日本大学大学院理工学研究科修士課程終了
2000年 (株)池田昌弘建築研究所入社
2005年 オーノJAPAN設立
現在 京都造形大学、日本大学非常勤講師

主な作品
2007年 NEアパートメント、回廊の家
2008年 BUILDING K
2009年 CH/air、皇居坂下手洗所、スチールシートハウス
2010年 森のピロティ

著書
『ヴィヴィット・テクノロジー』2007年

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Ring Around a Tree (ふじようちえん増築)
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子どもしか行くことのできない空間が2階建ての高さに7枚積層されている。床を鉄板とし薄くしている。   ▶

Ring Around a Tree (ふじようちえん増築)
所在地 東京都立川市/ 主要用途 幼稚園増築(英会話教室)/ 竣工 2011年/ 発注者 学校法人みんなのひろば、加藤積一、加藤久美子/ 設計 手塚貴晴+手塚由比/手塚建築研究所/ 施工 日南鉄鋼/ 敷地面積 4,791.69m2/ 建築面積 74.72m2/ 延床面積 146.98m2/ 階数 地上2階/ 構造 鉄骨造/ 工期 2010年9月〜2011年3月/ 撮影 木田勝久

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選考評
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「繊細な合理」
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優れた建築を生み出すための建築家との合意形成は多様だ。構造設計者のアイディアによって飛躍的な効果を発生することもあるが、むしろ建築家と構造家が同じ方向を向くことから真のコラボレートとなるように思う。
ここで取り上げられた建築は手塚貴晴・由比の名作「ふじようちえん」の増築である。敷地最北の角、欅の森の足もとにその建築がある。もともと大きな欅の下で英語講座が行われていたという、その青空教室の建築化であるが、そこで起こることは幼稚園児にとって立体ジャングルジムのような楽しさがあり、建築と云うより遊具と云う方が近いかも知れない。楽しい建築とは褒め言葉であるが、そう云えば本体の「ふじようちえん」は建築全体が遊具であり、この建築もその意味では遊具の建築化と言える。
今回の増築も瞬時にはそのスケールが分からず、四階建ての事務所建築のようにも見えるが、実は周到に計画された結果の姿である。欅の大木を取り囲む平面型は二重の楕円で構成され、普通の建築の呼び方で云えば二階建てなのだろうが、その階高とて2.3m、中間にベンチや庇となる平板が挿入され合計7枚で構成される。つまり極端に小さな階高が生まれ、柱寸法も座屈限度を考えれば角鋼30㎜角まで細くなるようだ。地震時の水平力を負担する部材も、角鋼60〜70角から平鋼40×160が適宜選択され不整形な楕円の平面形状に対して梯子状のフィーレンディール耐震トラスが円周方向と放射方向にそれぞれ4ヵ所設置されている。しかし規則的な配置ではなく、ねじれ防止を考慮して適当と思われる位置に配置されている。つまり家具的なスケールと構造断面が感性を基に想定され、数学的に検証し決定されたものと云うことだ。
・・・これが嬉しい。適当が適切にと言い換えても良いが、発想や思考の変遷を想像すると「こうあらねばならない」とか「こうすれば出来ますよ」と云う硬直的な思考からでなく、「こうあっても良いのではないか」という建築家と同じ方向を見た柔軟な思考の基に仮設が検証され決定して行く姿が見えるのだ。当たり前のようにも聞こえるかも知れないが、構造家の中にはそうでもない人がいる。建築家との相性もあるかも知れないが、構造の成立過程が柔軟な思考回路の基にあって、はじめてこのような建築の持つ楽しさが生まれるのではないか?さらに言えば、良い建築が成立して行くために必要な「繊細な合理」とはこのようにして建築家との間に生まれて来るものではないだろうか、本年の日本構造デザイン賞に相応しいと思う。

横河 健(選考委員・建築家・日本大学理工学部教授)

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