JSDC_medal

日本構造デザイン賞賞牌

2010年 第5回日本構造デザイン賞


──
総合選考評
──
 「松井源吾賞」を継承し、2006年に開始した「日本構造デザイン賞」も本年で5回目を迎える。本年は建築家の難波和彦氏を新たに審査委員に迎え、昨年から引き続き、建築家の横河 健氏、ジャーナリストの中谷正人氏、そして日本構造家倶楽部から我々2名が審査にあたった。
 本年は、作品賞候補13件、松井源吾特別賞候補1件の応募があった。作品賞候補の13作品は、建物規模(延床面積)が約100㎡から60,000㎡と幅広く、構造種別もS造、RC造、SRC造、木造に加え、アルミニウム、コンクリートブロックなどの特殊な材料を用いたものや、免震、制震などの先端技術を駆使したものなどさまざまであり、そのいずれもが、それぞれの材料や構造特性を活かし、創意工夫された作品であった。審査委員の中でも評価は大きく分かれたが、慎重な審議を重ねた結果、以下の2作品を「日本構造デザイン賞 作品賞」に選定することとした。
 アラン バーデン氏による「熊本駅東口駅前広場上屋」は、建築家の西沢立衛氏が提案するトポロジカルな平面形状の屋根を、プレストレスを導入した均一なRC平板とし、その平板を、柱頭を完全にピン接合とした14本の片持ち鋼管柱で支持するという明解かつ大胆な試みにより、デザインコンセプトを巧みに表現したものである。本作品に加え、氏がこれまでに携わった構造設計作品の質の高さも含め「作品賞」として評価した。
 江尻憲泰氏は、建築家の隈研吾氏との協業により、組石造(セラミックタイル)とラーメン構造を組み合わせた「Casal Grande Ceramic Cloud」(イタリア)など、アルミパネル、ETFEフィルムなどそれぞれの素材の特性を活かした力学的なアイデアにより、構造解析、検証実験等を通し、種々のパビリオンなどを具現化した。そのほとんどが恒久建築物ではないが、「さまざまな構造的アプローチによる作品群」として、氏の功績を評価した。
 また、「日本構造デザイン賞 松井源吾特別賞」には、1968年からアルミニウムの建築構造材としての活用に取り組み、「エコムスファクトリー」や「アルミの海の家」などの構造設計を手がけた飯嶋俊比古氏の受賞が決定した。氏は本賞の審査委員の一人である難波和彦氏との協業も図ってきたが、それは氏の業績の僅か一部であり、アルミニウム設計規準作成への深い関与、「アルミニウム建築構造設計」などの書籍の出版、講習会・講演会を通した技術指導など、氏のアルミニウム建築構造の普及・発展に係る活動は幅広く、本賞の主旨に十分合致するものと判断した。
 作品賞の選考から外れた中にも優秀な作品はあったが、建築デザインの表現、構造デザインの優れた試みと両者のバランスという観点から、審査委員全員が合意できる決め手に一歩及ばなかった感がある。選考から外れた方もこれに懲りずに、さらに優れた構造デザインを目指し、再度、本賞にチャレンジしていただきたいと思う。

佐々木 睦朗(選考委員長・構造家)中井 政義(選考委員・構造家)

──
2010年 第5回日本構造デザイン賞
──

アラン・バーデン/熊本駅東口駅前広場上屋ほか  経歴と受賞作品・選考評 
江尻 憲泰(えじり・のりひろ)/さまざまな構造的アプローチによる作品群  経歴と受賞作品・選考評 

──
2010年 第5回日本構造デザイン賞 松井源吾特別賞
──

飯嶋 俊比古(いいじま・としひこ) /アルミニウム建築構造の普及・発展への貢献   経歴と業績・選考評  

──
選考委員
──
難波 和彦(建築家)横河 健(建築家)中谷 正人(建築ジャーナリスト)佐々木 睦朗(選考委員長・構造家)
中井 政義(構造家)