2009年第4回
日本構造デザイン賞
松井源吾特別賞

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山辺 豊彦 (やまべ・とよひこ)
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経歴(受賞時)
1946年 石川県生まれ
1969年 法政大学工学部建設工学科建築専攻卒業
1969-78年 青木繁研究室
1978年- 山辺構造設計事務所
1982-97年 法政大学工学部建築学科 非常勤講師
2006-08年 千葉大学工学部建築学科 非常勤講師

主な作品
1991年 JR赤湯駅
1993年 つくば市立東小学校
1995年 棚倉町立社川小学校、信楽町立図書館

1996年- 雨錫寺阿弥陀堂など文化財保存修理
2003年 正田醤油本社屋
2004年 カリタス学園

著書
『絵解き住まいを守る耐震性入門』風土社、2006年(監修)
『世界で一番やさしい木構造』エクスナレッジ、2008年
『渡り腮構造の住宅のつくり方』建築技術、2008年(共著)
『ヤマベの木構造』エクスナレッジ、2009年

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業績:地域材活用による一連の構造設計と実権活動
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大工塾。実大住宅の引張加力試験。   ▶

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選考評
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このところ、木造建築に注目が集まっている。なぜ今、木造なのか?
木は自然が育てた持続可能な素材で、日本の文化は、豊富な森林と共に培われてきた。
「環境」が叫ばれている今の時代、森林を守るという意味で、50,60年サイクルで伐採と植林を繰り返すシステムを構築することによって、自然のなかで再生産される木材を建築用材として使うことでCO2を木材にストックすることができ、地球環境問題に貢献できることが社会に理解され始めたからであろう。そして、ストレスの多い現代社会を癒すために木が持つやさしさが必要なのかもしれない。
そうした社会の潮流にあって、「森の復活」と「地域木材活用」運動が日本の各地域に起きている。そして、住宅は勿論、学校施設、文化施設、保養施設など地域の木材を用いた建築が造られるようになってきた。
山辺豊彦氏は、素材としての木を知り、伝統的な匠の技を工学として捉えて、「もの創り」を実践している数少ないベテラン構造家の一人である。
山辺氏の近年の業績は、以下の通りである。
■大工塾─1998年から
建築家の丹呉明恭氏と共同で大工を中心とした木造の勉強会を開始。
大工たちが用いている継手、仕口、耐力壁、水平構面などの構造実験を行い、その特性を解明したうえで、実際の設計法に反映して耐震性を評価する研究を続けてきた。
これらの成果は、建築系の雑誌に発表されているが、その集大成が3冊の単行本として昨年末から今年4月にかけて出版された。
『渡り腮構法の住宅のつくり方―木の構造システムと設計方法』丹呉明恭+山辺豊彦著、建築技術発行
『110のキーワードで学ぶ―世界で一番やさしい木構造』山辺豊彦著、エクスナレッジ発行
『ヤマベの木構造』山辺豊彦著、エクスナレッジ発行
■最近の作品
「七沢希望の丘初等学校」
神奈川県東丹沢の豊かな自然に囲まれた里山に建つ、体験学習を重視した教育方針を掲げた小学校で、建築家中村勉氏と共働した作品である。
ここでは、地場産材を用いた方杖付き架構と、桁方向に面格子耐力壁を配して、蛇行しながら連続する木造空間を実現している。
「朽木東小学校・中学校屋内運動場」
中径木の町有林を活用した持ち送り重ね梁によるアーチ構造を開発し、現在実大実験による検証を終了している。
このプロジェクトをきっかけとして、小径木を用いた重ね梁の規格化を図り、地域材の利用を振興させる運動を展開している。
ここに、松井源吾先生が長年研究してきた木造を継承する、山辺豊彦氏の情熱とたゆまぬ努力に敬意を表し、その優れた業績を認め、松井源吾特別賞を贈りたいと思う。

播 繁(選考委員長・構造家)

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