2007年第2回
日本構造デザイン賞

総合選考評 ▶



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橋本 和重(はしもと・かずしげ)
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経歴(受賞時)
1948年 茨城県生まれ
1968年 中央工学校建築設計科卒業
1968-74年 (株)三上建築設計事務所
1974-79年 (株)構造設計集団
1979年 橋本構造設計室を設立
名称を(株)エスティアールデザインに変更し、現在に至る

主な作品
1980年 那珂湊大洗青果市場
1933年 岡田先生の家
1996年 法務総合研究所研修センター

1997年 アンビデックス本社ビル
1998年 サンモール・インターナショナルスクール・ファインアートセンター
1998年 岡崎邸
1999年 スピークフォー代官山
2000年 ヒステリック大阪
2001年 アンビデックス代官山
2003年 中部大学留学生寮
2004年 天神2丁目ビル
2005年 新天本病院
2005年 学校法人中村学園1号館
2007年 東京未来大学

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フラットバーによるエキスパンドベアリングウォール
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外観。

フラットバーによるエキスパンドベアリングウォール「レイカズン本社ビル」
所在地 東京都渋谷区/ 主要用途 店舗・事務所/ 竣工 2006年/ 発注者 レイカズン/ 設計 建築:照井信三建築研究所、 構造:STRデザイン、 設備:望月設備興業/ 施工 赤羽建設/ 敷地面積 188.35m2/ 建築面積 123.43m2/ 延床面積 470.98m2/ 階数 地下1階、地上3階/ 構造 鉄骨造/ 工期 2005年9月〜2006年5月/

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選考評
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レイカズン本社ビルは、アパレルメーカーのヘッドクオータービルである。施主からの最大の与件は、敷地に対して最大限の床面積を確保してほしいと言うこと、また、1階は自社ブランドの洋服等を展示するショールームとして使用するので、内部のアクティビティーが外部に顕示できるような、透明性のある外壁がほしいと言うことであった。 
建築家はこれらの与件と、空間に必要なフレキシビリティから、建物の荷重(鉛直、水平)を外皮のみで処理し、しかも外皮に透明性を与える手法を、構造家と協議した。外皮の構造パターンに対する建築家の希望は、エキスパンド・メタルのような網状のイメージであったが、構造家はこれを無垢のフラットバーで構成することを提案した。
両者は更に協議を重ね、当初均一に考えていた網状パターンに変化をも持たせて不均一にすることによって、建築表現上はショウルームの変化のスピード感やブランドのエリアバランスの流動感を表現できると同時に、構造的にも蜜な部分は重力を、疎な部分は水平力を主に負担するような機能分担をさせ得ることを見出した。
エレベーションに現れるひし形のパターンは、一見、幾何学的不安的を思わせるが、このパターンは上下のフロアから伸びた三角形が階高中央で頂点を共有していると考えれば、十分なredundancyを持った安全パターンであることが容易に分かる。また、両方向のラティス材を同じ面で構成せず、それぞれを通している点も明快である。これは、このような骨組みが、階高中央の交点では、たとえ同一面で交わっていても、ほとんど力のやり取りを行わないことを知っていて、初めてできることである。
この種の構造で最も注意を払うべきは、座屈の問題である。構造家はこの問題についても慎重に解析を行い、安全性を確かめている。また、建築家および構造家は部材の工場製作、現場での建て方、施工にわたる全工程に注意を払っており、本建物を小品ながら質の高い建築に仕上げるのに、努力を惜しんでいない。
上記の理由により本作品の構造家橋本和重氏は日本構造デザイン賞受賞候補としてふさわしい構造技術者として評価されると共に、両者の有機的協働が今後も更なる展開を見せることを期待するものである。

播 繁(選考委員長・構造家・播設計室)

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