2019年第14回
日本構造デザイン賞

総合選考評

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原田 公明
(はらだ・ひろあき)

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原田 公明

経歴(受賞時)
1961年 鹿児島県生まれ
1987年 東京都立大学大学院工学研究科修了後、株式会社日建設計入社。 現在、株式会社日建設計エンジニアリング部門構造設計グループダイレクター
2006~2011 年 工学院大学非常勤講師
2013~2016 年 早稲田大学芸術学校非常勤講師
2008 年~ 慶応義塾大学非常勤講師

主な作品
旧日本長期信用銀行本店(1993)
さいたまスーパーアリーナ(2000)
日建設計東京ビル(2003)
コウヅキキャピタルウエスト(2002)
ホテルニューオータニ本館改修(2007)
Tokyo Tech Front東工大蔵前会館(2009)
立教大学新座キャンパス新教室棟(2011)
東京電機大学千住キャンパス(2012)
港区立白金の丘学園(2014)
YKK80ビル(2015)
法政大学富士見ゲート(2016)
上智大学ソフィアタワー(2017)
武蔵野大学武蔵野キャンパス第一体育館(2017)

著書
『[広さ][長さ][高さ]の構造デザイン』(編著、建築技術)
『構造デザインマップ東京』(編著、総合資格)

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さまざまな素材を活かした構造デザイン
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コウヅキキャピタルウエスト外観 撮影:石黒守

コウヅキキャピタルウエスト──190φ極細鉄骨柱による透明感のある建築(制振構造)
所在地:大阪府大阪市北区曽根崎/主要用途:事務所/発注者:コウヅキキャピタル(株)/設計:(株)日建設計/施工:鹿島建設(株)/敷地面積:463㎡/建築面積:404㎡/延床面積:4,865㎡/階数:地下1階、地上13階、塔屋1階/構造:S造(一部柱CFT造)/工期:2001年1月~2002年4月/撮影:石黒守

立教大学新座キャンパス新教室棟──機能美と構造美に配慮した台形柱梁ラーメン構造
所在地:埼玉県新座市北野/主要用途:大学/発注者:(学)立教学院/設計:(株)日建設計/施工:戸田建設(株)/敷地面積:20,326㎡/建築面積:1,736㎡/延床面積:8,556㎡/階数:地下1階、地上5階、塔屋1階/構造:RC造(床梁一部S造)/工期:2010年3月~2011年3月/撮影:阿野太一

武蔵野大学武蔵野キャンパス第一体育館──木鋼ハイブリッド張弦梁構造による建築空間
所在地:東京都西東京市新町/主要用途:大学/発注者:(学)武蔵野大学/設計:(株)日建設計/施工:大成建設(株)/敷地面積:99,860㎡/建築面積:1,876㎡/延床面積:3,402㎡/階数:地下1階、地上2階、塔屋1階/構造:RC造、屋根のみS造/工期:2015年11月~2017年3月/撮影:米倉写真事務所

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選考評
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 原田公明さんと初めて御一緒したのは1993年の我が国で初めての本格的DPGガラスファサードを実現した「旧日本長期信用銀行本店」のガラスキューブの仕事である。原田さんはその後も「さいたまスーパーアリーナ」(2000年)を皮切りに、個性的な構造デザイン作品を次々と実現していった。特に大阪と東京で設計された「コウヅキキャピタルウエスト」(2002年)と「コウヅキキャピタルイースト」(2003年)は、信じられないほど細い鋼柱が立ち並ぶ端正なファサードを有する作品で、原田さんの個性が際立った名作である。だまし絵のようなシャープなエッジのRCフレームが印象的な「立教大学新座キャンパス新教室棟」(2011年)も「その手があったか!」と唸らせる格調の高い外部空間を醸し出す作品となっている。今回の「武蔵野大学武蔵野キャンパス第一体育館」(2017年)も豊かな森のキャンパスに相応しい、木材を基調としながら鋼材を上手に組み合わせた素直で丁寧な構造デザインに仕上がっている。このように原田公明さんはさまざまな素材の特性をうまく活かし組み合わせる構造デザインの名手であり、日本構造デザイン賞に相応しい構造家である。

竹内 徹(選考委員・構造家)

 「立教大学新座キャンパス新教室棟」の中庭に立ったときの、シュルレアリスムの絵画の街に迷い込んだような不思議な感覚は、今もはっきりと覚えている。2012年の冬だった。台形断面の柱梁によるラーメン架構が生み出す陰影の深い造形は、コンクリートの可塑性を最大限に生かした構造だった。旧来の定型的なRCラーメン架構を、新たな形態を創生する構造として展開した力量に驚かされた。それからしばらくして、まったく違う作風の「コウヅキキャピタルウエスト」が原田氏の設計だったことを知り、再び驚いた。190φという極めて細い鋼管柱が支える高さ60mのオフィスビルが大阪駅前に出現したのは、そのちょうど10年前の2002年だった。どうしてそんなことが可能なのか、発表当時は、作品が掲載された雑誌を食い入るように読んだ。低降伏点鋼制振ブレースによる制振技術が駆使されていた。そして今年、私たちが見たのは、雨に濡れて濃さを増した武蔵野の緑の中の「武蔵野大学武蔵野キャンパス第一体育館」だった。中に入ると木の香がした。木立の枝を思わせるV字の束柱と、木とスチールによる張弦梁が、シンプルに屋根を支えていた。説明資料には、氏の佇まいを思わせる、柔らかな筆致のスケッチがあった。原田公明さんは日本構造デザイン賞にふさわしい構造家である。

桝田 洋子(選考委員・構造家)

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