JSDC_medal

日本構造デザイン賞賞牌

2017年 第12回日本構造デザイン賞


──
総合選考評
──
 2006年に始まった「日本構造デザイン賞」は今年で12回目、かつての松井源吾賞から数えれば27回目を迎えることになる。今年度の応募件数は昨年と同様10件であったが、応募内容は多岐にわたった。すなわち、美術館・図書館(2)、福祉施設(1)、スポーツ施設(2)、集合住宅(2)、学校建築(1)、複合商業施設(1)、改修デザイン(1)等である。
 2017年6月9日(金)9時よりA-Forum(お茶の水)において選考会が行われた。委員は昨年同様、斎藤公男(委員長)、西沢立衛、赤松佳珠子、金田充弘、山田憲明の5名である。まず選考を始めるに当って応募要項の確認を行った。今年より改正された選考基準を中心に以下の諸点が共有された。すなわち、
 1) 応募作品の構造デザインに関する評価を行うと共に、応募者の構造家(構造設計者)としての実績や資質についてもできるだけ議論すること。
 2) ひとつの作品について複数(今回は2名)の応募者がいる場合、各々が果たした役割が明確かつ対等であり、設計および工事監理まで一貫して「作品」創りに主体的に関与していること。
 3) 海外からの応募者については、かつての松井源吾賞以来、多くの事例があり、特に問題はないこと。
 4) 松井源吾特別賞は会員の全体集会において推薦された候補者を選考委員会で審議・承認するというかたちをとること。
 選考を始めるに当たり、2点を確認した。ひとつ目は海外からの応募資料が選考当日の朝届いたが、応募作品が不明であるなど資料不備のため選考外とした。ふたつ目は、金田委員が関係する所属からの応募が1件あり、この応募に対しては金田委員の議論と投票の権利をなしとした。
 まず約1時間かけて全応募資料について精読を行った後、各々の応募について、各々の委員が所見を述べながら互いに意見を交わし、理解を深めた。次に対象とした応募者について無記名投票を行った。選考委員1名につき3票を持ち票とし、2票以上投票することとした。受賞予定者数の2名より1票多くしたのは、議論すべき作品をより広げようという狙いである。審査過程は概ね次の通りである。
 第1回の投票でまず萩生田 秀之 + 喜多村 淳が満票(5票)を得て受賞者候補に選ばれた。応募作品「新豊洲ブリリアランニングスタジアム」はETFE膜と湾曲集成材と鋼材を組み合わせたハイブリッド構造によるスポーツ空間である。特に、海外では既に一般化しているものの、国内でその利用の糸口が見出せなかったETFE膜(クッションタイプ)を初めて適用させたプロジェクトとして注目されており、社会的にも今後の波及効果が期待され得る事例と考えられる。また、透明膜と木質アーチが生み出すヴォールト状のランニングコースのデザインには躍動感と快適性が感じられた。木構造と膜構造を各々得意とする異業種の構造設計者による1作品限りのコラボレーションに対しての連名受賞について懸念する意見も出たが、両氏の実績は選考基準に十分達している上、今後の構造設計チームの新しいあり方としてひとつの可能性を示唆するものと評価された。
 次に0票の応募3件を落選とし、1票以上を得た6件について議論を深めた。その結果、4件はいずれも僅かな差で落選となった。残された2件については選考委員によって評価が分かれ、長時間にわたる議論を経たにも拘わらず、どちらか一方のみを受賞者に選ぶことができなかった。しかしながら両者とも、総合的には充分に選考基準を越えていると判断し、異例ではあるが、JSDC会長の了解を得た上で両者を加え、以下の3件の応募を今年度の日本構造デザイン賞の受賞者に決定した。

 1) 伊藤潤一郎(Arup):太田市美術館・図書館
 2) 加登美喜子(日建設計):熊本県立熊本かがやきの森支援学校
 3) 萩生田秀之(KAP)+喜多村淳(太陽工業):新豊洲ブリリアランニングスタジアム

 3)については既に少し触れたが、1)、2)についての評価は各々の選評に委ねたい。いずれも本賞にふさわしいすぐれた作品であり応募者のこれまでの実績と共に構造設計者としての資質も高く評価されよう。
 本年度の「松井源吾特別賞」は、2017年3月17日(月)に行われた日本構造家倶楽部(JSDC)総会において推薦された腰原幹雄氏が多大な業績を評価され、選考委員全員の賛同を得て下記の様に承認された。
 腰原幹雄(東京大学):「木質構造デザインの普及・発展に対する顕著な貢献」

斎藤 公男(選考委員長・構造家)

──
2017年 第12回日本構造デザイン賞
──

伊藤 潤一郎(いとう・じゅんいちろう)/太田市美術館・図書館  経歴と受賞作品・選考評 
加登 美喜子(かとう・みきこ)/熊本県立熊本かがやきの森支援学校  経歴と受賞作品・選考評 
萩生田 秀之(はぎうだ・ひでゆき) + 喜多村 淳(きたむら・じゅん)/新豊洲ブリリアランニングスタジアム  経歴と受賞作品・選考評 

──
2017年 第12回日本構造デザイン賞 松井源吾特別賞
──

腰原 幹雄(こしはら・みきお) /木質構造デザインの普及・発展に対する顕著な貢献  経歴と業績・選考評 

──
選考委員
──
斎藤 公男(委員長・構造家)西沢 立衛(建築家)赤松 佳珠子(建築家)金田 充弘(構造家)山田 憲明(構造家)