2016年第11回
日本構造デザイン賞

総合選考評 ▶

前の受賞者
次の受賞者

──
ローラン・ネイ(Laurent Ney)
──

Laurent Ney

経歴(受賞時)
1964年 ティオンビル(仏)生まれ、ルクセンブルク国籍
1984-1989年 リエージュ大学
1989年 アーヘン工科大学(指導教官 G. Sedlacek)
1989リエージュ大学土木工学修了(学位論文 “Etude paramétrique du contreventement des ponts en arc”)
1989-1996年 グレイシュ事務所勤務
1998年 ネイ&パートナーズ設立
http://www.ney.be

主な作品
クノッケ歩道橋
オランダ海事博物館
Albi歩道橋(仏)
Tintagel歩道橋(英)

SpoorNoord歩道橋
プロムナード橋
Zwolle歩道橋
ナイメーヘンシティブリッジ
Smedenpoort歩道橋
出島表門橋
三角キャノピー
Tachemoniキャノピー
キールキャノピー
スタリール可動橋など

著書
“Designing the City Bridge, Nijmegen” Van Tilt刊、2014年
“Shaping Forces” A+Editions+Bozar Books刊、 2010年
“Ney & Partners Freedom of Formfinding” A16 & VAi刊、2005年

──
三角港キャノピー
──

撮影 momoko japan

三角港キャノピー
所在地 熊本県宇城市三角町三角浦/主要用途 通路上屋(日除けキャノピー)/竣工 2016年/発注者 熊本県宇城地域振興局/設計 株式会社ネイ&パートナーズジャパン/施工 株式会社大島造船所/建築面積 1,000m2/延床面積 1,000m2/階数 平屋/構造 鉄骨造/工期 2015年7月〜2016年3月

──
選考評
──

 JR熊本駅から電車で約50分、終点の三角駅を出ると、フェリー乗り場へと続く白いキャノピーが、のびやかな円弧を描いて青空の下に広がっている。ピン接合の支柱頂部には、特注の光学ガラス(レンズに使用する特殊ガラス)を加工した照明器具が仕込まれていて、キャノピーが軽やかに浮かぶような効果を出している。円弧に沿って立つ支柱は交互に位置が偏心しているのだが、構造の偏心量と同時に空間の多様性を考慮した結果だという。実際に歩いてみると心地よいランダム感があり、その効果が空間に生かされていることを実感する。
 応募資料によると、「意匠設計者による任意のかたちを構造設計者が技術的に解決する旧来の構造設計とは異なり、求められる機能や要求、条件を踏まえつつ、美しい技術解=かたちを構造原理や技術を頼りに見出していく」とある。この「三角港キャノピー」は、まさに意匠と構造などと切り離しては語れない、双方からの同時アプローチによって生まれた高度な技術による美しい空間性を有している。

赤松 佳珠子(選考委員・建築家)

 構造家が社会から潜在的に求められていることは、性能やコストだけでなく、数字では表せないさまざまな物事の関係性(場、歴史、人間等)にも想いを巡らせ、個人の思考によって、ひとつの構造物に形態とディテールを持つ仕組みとして統合し、その場に新たな価値を創出することであろう。
 受賞作品は、総長200mに渡って緩やかなカーブを描く眩いばかりに白い平板を26本の列柱で支える、きわめてシンプルなキャノピーである。現地で目の当たりにすると、環境、力学、製作、演出といったあらゆることへの配慮がなされ、この構造物の各要素がバランスしながら整然と存在していることに気づかされる。たとえば、通路確保のために柱頂部のピン支点から大きく偏心させた屋根は、今にも傾きそうに見えるが、湾曲プランを活かした円弧状の鋳鋼柱配置と、屋根幅を活かした捩れ剛性の高い鋼板サンドイッチパネルの組み合わせで立体的に安定させており、さらに柱頂部に設けられた照明は、夜に白い平板を美しく浮き上がらせる。このキャノピーが存在する以前は果たしてどんな空間だったのかと考えさせられるほど、風景に溶け込みつつ既視感のない港湾空間を創出しており、設計者のローラン・ネイ氏が本賞を受賞するに相応しい構造家であることは明らかである。
 ネイ氏の活動中心はヨーロッパであるが、本作品を担当し、2012年に開設した日本事務所代表を務めるパートナーの渡邉竜一氏と共に、日本でのさらなる活躍が期待される。

山田 憲明(選考委員・構造家)

◀前の受賞者   2016年第11回日本構造デザイン賞総合選考評   次の受賞者▶