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日本構造デザイン賞賞牌

2016年 第11回日本構造デザイン賞


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総合選考評
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 2006年に始まった「日本構造デザイン賞」は今年で11回目、松井源吾賞から数えれば26回目を迎えることになる。 今回の応募件数は10件であり、2016年6月15日(水)に建築家2名、構造家3名からなる選考委員すなわち、 赤松佳珠子、西沢立衛、金田充弘、山田憲明および斎藤公男(委員長)により選考会が行われた。 応募作品の概要は以下の通りであり、対象は多岐にわたった。

 体育施設(アリーナ、スタジアム)2件、幼稚園1件、住宅(別荘)1件、大学施設(記念館)1件、集合住宅1件、オフィスビル1件、  耐震改修1件、ミュージアム1件、港湾施設1件、以上10件。

 まず、選考を始めるに当って次の3点について意見交換を行い、選考委員会としての基本方針を確認した。
1) ひとつの作品について複数(今回は2人)の応募者がいる場合、各々が果たした役割が明確かつ対等であり、さらに各々のこれまでの実績が認められること。
2) 海外からの応募者については、松井源吾賞においても事例があり、特に問題はないとする。
3) 応募作品の構造デザインに関する評価を行うと共に応募者の構造家としての実績や資質についてもできるだけ議論すること。

 次に選考委員長より第11回「日本構造デザイン賞」の選考基準についての提案があり、議論を経て次の各項が確認された。
1) 本賞は応募作品における構造設計者の業績を評価すると共に、これまでの実績を通じて優れた個人の構造設計者を顕彰するものである。
2) 応募作品は建築的に優れており、そのデザイン・コンセプトが明快であること。
3) 構造デザインの視点から、新規性、合理性、審美性など構造設計者としての創意工夫が盛り込まれていること。
4) 応募者は基本設計、実施設計および工事監理まで一貫して「作品」創りに主体的に関与していること。

 以上の視点を共有しながら提出資料を吟味した上で議論と投票を重ねた結果、次の2作品および3名の応募者が受賞者として決定された。  いずれも独創的な構造デザインによって「建築」が求める空間的創造性と構造的合理性を実現させている。

  岡村 仁 + 桐野 康則
  静岡県草薙総合運動場体育館「このはなアリーナ」

  ローラン・ネイ
  三角港キャノピー

 上記2作品については実際に現地を視察した選考委員の各々が選評を述べているが、ここでは両者を比較しながら、委員長としての私見をコメントしたいと思う。
 まず特筆すべき第1は、日本構造デザイン賞としては初めてとなるユニットとしての連名受賞者が誕生したことである。 岡村、桐野の両名ともに各々の個人実績は申し分なく、共同設計した応募作品の質も高いと評価された。「このはなアリーナ」は、 地方の時代の地方の建物に込められた建築家・内藤廣の漲る気迫が伝わってくる建築である。設計者の木に対する思いの強さが形態と構造の大胆な発想へと結びついたと考えられるが、 その実現は容易ではない。木質構造の特性を把握し、免震構造として大空間を成立させるため構造設計者は設計から施工までさまざまな専門的エンジニアとの協同を構築し、 統合へと導いている。これまでのユニットとしての実績の高さが伺えよう。
特筆すべき第2は、「三角港キャノピー」が海外の著名設計者による土木的構造物ということである。松井源吾賞においても、L. E. ロバートソン、P. ライス、C. バルモント、 最近では J. シュライヒが受賞しており、L. ネイは海外在住者として6人目の受賞者となる。ベルギー、ブリュッセルに本社があるネイ&パートナーズの設計プロセスの特徴は、 通常の建築家と構造設計者との協同のかたちをとらない点である。多くの橋梁や大スパンおよび土木構造物に関しては自社で意匠から構造、設計から施工監理までを手掛けている。 美しく合理的な技術解=かたちを、物語(ストーリー)を育みながら創出させるプロセスは、たとえば最近つくられた「札幌路面電車停留所」の端正な空間に見ることができる。 素材・ディテール・構造システムが見事に小さな建築に凝縮されている。「三角港キャノピー」も同様な期待を抱かせよう。
 「日本構造デザイン賞 松井源吾特別賞」はArup東京事務所代表として永年の功績を果たした彦根茂氏を委員会全員一致で決定した。

斎藤 公男(選考委員長・構造家)

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2016年 第11回日本構造デザイン賞
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岡村 仁 + 桐野 康則(おかむら・さとし + きりの・やすのり)/静岡県草薙総合運動場体育館「このはなアリーナ」  経歴と受賞作品・選考評 
ローラン・ネイ(Laurent Ney)/三角港キャノピー  経歴と受賞作品・選考評 

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2016年 第11回日本構造デザイン賞 松井源吾特別賞
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彦根 茂(ひこね・しげる) /Arup東京事務所代表としてトータルな構造デザインの実現に果たした永年の貢献  経歴と業績・選考評 

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選考委員
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斎藤 公男(委員長・構造家)西沢 立衛(建築家)赤松 佳珠子(建築家)金田 充弘(構造家)山田 憲明(構造家)