2012年第7回
日本構造デザイン賞

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山田 憲明(やまだ・のりあき)
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経歴(受賞時)
1973年 東京都生まれ
1997年 京都大学工学部建築学科卒業
1997年 増田建築構造事務所入社
2000年 同社チーフエンジニア
2012年 山田憲明構造設計事務所設立

主な作品
2003年 西袋中学校体育館
2004年 大洲城天守閣、勝山館跡ガイダンス設立、レストランアーティチョーク
2007年 仁井田中学校体育館
2008年 国際教養大学図書館
2011年 緑の誌保育園棟

著書
『構造デザインの歩み』建築技術(編著)

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東北大学大学院環境科学研究科エコラボ
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1階ホール内観。(写真提供:ササキ設計)   ▶

東北大学大学院環境科学研究科エコラボ
所在地 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉/ 主要用途 学校/ 竣工 2010年/ 発注者 東北大学/ 設計 ササキ設計/ 施工 サンホーム/ 敷地面積 781031.67m2/ 建築面積 669.22m2/ 延床面積 997.55m2/ 階数 地上2階、塔屋1階/ 構造 木造/ 工期 2009年10月〜2010年3月/ 写真提供 佐々木文彦、山田憲明

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選考評
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 山田憲明氏の「東北大学大学院環境科学研究科エコラボ」はラーメン構造という一見地味な仕組みながら、地元の杉間伐材の小さな断面を巧みに使いこなした逸品である。方杖を使う手法は古い駅舎や学校建築に見られる手法であるが、それを合理的な力学を駆使して一歩と言わず数歩も進んでいる。当然の事ながら間伐材には長物はない。よって梁には継ぎ手が出るのであるが、その弱点をダブル連続梁の跳出しによって洗練されたコンセプトへと昇華させている。固定端の柱脚部も工夫に満ちている。一見するとあたりまえのようで小さな工夫を積み重ねつつデザインされた応力と変形モデルに妥協はない。耐風ルーバーの解決も面白い。ルーバーをルーバーだけで終わらせず外壁にかかる風圧を負担している。この力学がシームレスに躯体から詳細に至るまでつながって行く様は、間伐材という素材だからこそ導き出されるごく自然な回答であるように思う。
  国際教養大学図書館棟は村野藤吾賞や日本建築家協会賞で非常に高い評価を得ているので詳細は避けるが、言うまでもなく優れた作品である。小さな断面を伝統的竹細工のように編み上げた空間には品格が漂っている。重ね透かし梁の構成は見事に応力の流れを表現して妥協がない。今回山田憲明氏が選ばれた理由は応募一作品だけの評価ではない。過去の数ある作品の中にひとつひとつ積み上げてきた盤石な業績が選考委員一同異論のない結論を産んだのである。
  その他、私個人としては満田衛資氏の「カモ井加工紙第三撹拌工場史料館」を高く評価している。一見すると何もしていないどころか無意味な柱が邪魔をしているかのように見えるが、実はこの工場成り立ちを注意深く構造部材で表現した実に哲学的な建物である。8つの吹き抜けは工場の歴史そのものである。横方向の力を短柱で負担しつつ真ん中の柱で鉛直荷重を負担しているのであるが、それが実にバランスしている。等分布荷重ではなく偏分布荷重をモデルに組み込んでいる点も小さい建物としては小気味良い。
  基本的に最新の構造技術をもってすれば建築構造で不可能なものはない。その気になれば2,000mのスパンでさえ可能であることは日本各地に現存する橋梁が証明している。よって審査されるべきは技術よりもバランスであるように思う。如何に最新の技術を駆使していようとも、過剰表現の構造は社会へ貢献しない。結局のところ構造はデザインである。デザインであるからには、純粋な力学を超えて文化的社会的側面も取り込んで咀嚼していかなくてはならない。これらのノイズを取り込んで美学を失わない構造を夢見るのは無謀であろうか?

手塚 貴晴(選考委員・建築家)

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